炎の国の王の花

明樹

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オルタナは、ヴァイスの子供だ。
ヴァイスと同じく美しい白馬だ。
俺は、物心ついた頃からオルタナにしか乗っていないし、オルタナも俺しか乗せていない。
言葉では話せないけど、とても信頼しあっているんだ。

「オルタナ、俺の父さまとヴァイスが、カナを連れてどこかへ行ったんだ。捜せるか?」

ぶるるっと鼻を鳴らして、オルタナが首を縦に振る。まるで「任せろ」と言ってるかのような態度に俺は笑って、「頼んだぞ」とオルタナの背中に飛び乗り首を撫でた。

「カエン様、俺も一緒に行きます」
「俺とオルタナだけで大丈夫だよ、リオ」
「いえ、俺も行きます。もしもアルファム様が帰ることを拒否して暴れられたら、一人で止められますか?」
「……無理」
「でしょう?カエン様も大きくなられましたが、身体の大きなアルファム様を一人で止めることは出来ません。…カナデなら、言葉一つで止められたでしょうけど…」

栗毛の愛馬に跨ったリオが、シュン…と俯く。
リオも、母さまの死をとても悲しんでいる一人だ。



リオは、母さまが亡くなったことを知って、声を上げて泣いていた。半日泣き続けた後は、目を腫らしながら、母さまの身体を安置する祭壇の指示を出していた。

俺もリオと同じで、中庭で動かなくなった母さまを抱きしめる父さまを見た直後から、泣きに泣いた。この先の一生分の涙を流したんじゃないかと思うぐらい、たくさん泣いた。
だから、まだとても悲しいけど、ふいに涙が出ることがあるけど、母さまの死をきちんと受け止めている。

俺が、中庭で父さまと母さまを見た時には、既に父さまが、母さまの身体が朽ちないように魔法をかけていた。

「カナの尊い身体が、少しでも朽ちることは許さない」

辛いけども、母さまを送る準備を始める為に、まずは母さまの身体に魔法をかけなければと言った俺に、父さまが、既に魔法はかけてあると言った後に、吐き出した言葉。
父さまは、祭壇に母さまを寝かせてからは、毎日朝から夜まで母さまの傍にいた。もしかすると、夜も寝ないで母さまの傍にいたのかもしれない。
父さまは、毎日愛おしそうに母さまに触れ、話しかけていた。
本当に深く母さまを愛していたのだから、片時も母さまの傍を離れたくないのだろうと、俺は黙って見ていた。ずっと見守っていた。
だけどあの時…もしかしたら…。

死者に施す身体が朽ちない魔法は、死者を土に埋めるまでの三十日しか効果がない。三十日を過ぎると徐々に朽ちていく。
でも母さまの場合は、四十九日保つ為に、より強力な魔法をかけてあると、父さまが話していた。

毎日母さまの元へ行き、母さまに触れていた父さま。
母さまの頬を撫でる父さまを見て、俺は悪い予感がしていた。
父さまは、毎日毎日、母さまに触れ言葉をかけた。
なんて言ってるのかよく聞こえなかったけど、もしかすると母さまに魔法をかけていたのかもしれない。
母さまの身体が、永遠に朽ちることのないように。


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