炎の国の王の花

明樹

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ふと横を見ると、母さまが優しい顔で、中庭に咲いてる赤い花を見ている。

母さまは、昔から華奢で、強く抱きしめたら消えてしまいそうな人だったけど、ここ二、三年は、特に儚くて心配になる。

俺が五歳くらいの頃から、よく目眩を起こして倒れるようになった。
母さまは「大丈夫だ、元気だ」と言い張って、約束していたディエス国やスイ国に行こうとしたけど、心配した父さまが、絶対に許さなかった。
それでも母さまは、諦めなくて、翌年に父さまが渋々許可を出して、父さまと俺も一緒にディエス国とスイ国に行った。
行ってる間は、母さまはとても楽しそうで元気だった。
だけど、帰国した途端に寝込んでしまい、七日間起きることが出来なかった。

ひどく心配した父さまが、国中から名医を集めて診てもらったけど、皆どこも悪くないと言う。
「歳のせいだよ」と母さまは笑ったけど、父さまよりも五つ下の母さまは、まだ三十歳にもなってなくて若い。見た目なんて、二十歳ぐらいに見える。
「もっと鍛えて体力をつける」と俺と一緒に魔法や剣の練習を頑張っていたけど、母さまは、目に見えないほどの緩やかな速度で、でも確実に、年々弱っていった。

俺が黙って考え込んでいると、ふいに母さまが、話しかけてきた。

「ねえカエン、あの大きな赤い花、アルみたいだと思わない。力強くて明るくて、とても綺麗だ」
「まあ、言われてみればそんな感じだね。その隣の小さな薄桃色の花は、カナみたいだよ」
「ほんと?俺ってあんな可愛いかな」
「可愛いよ。守らなきゃって思っちゃう」
「ふふ、俺は本当に幸せ者だ。アルやカエンや、リオまでもが俺を守ってくれる」
「俺達だけじゃないよ。城中の者や、国中の人達が、カナを守りたいと思ってるよ」
「うん…本当に感謝してる…」

あ、また…と俺は母さまの手を慌てて握った。
母さまが目を見開いて、不思議そうに俺を見る。
俺は、母さまがここにいるのを確かめるように、強く抱きしめた。

「カエン?」
「カナ…、本当に大丈夫?しんどくない?辛くない?父さまや俺を心配させないようにって、無理してない?体調が悪かったらちゃんと言って」
「カエン…。わかった、ちゃんと言うよ。でも今日は、本当に調子がいいんだ。だから、アルが戻って来たらさ、街に出かけようか」
「うん。カナがしたいことしてあげる」
「ふふ…、あんなに小さくて我儘言ってた子が、すごく立派になった。でも、ゆっくりでいいんだよ、ゆっくり大きくなってよ…カエン…」
「カナ?」

俺の肩に顔を押し付けて、母さまが消え入りそうな声を出す。
心配になって顔を覗くと、「カエン、大好きだよ」と母さまが笑った。




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