炎の国の王の花

明樹

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「カエン起きて」
「んう……」

ゆさゆさと身体を揺らされて、俺は腕を伸ばして唸った。
欠伸をしながら目を開けると、母さまが笑って俺の頭を撫でている。

「すごい寝ぐせ。ふふっ、おはようカエン」
「…おはよう。寝坊しちゃった?」
「少し…ね。夜中に俺と話してたから仕方ないよ」
「父さまは?」

身体を起こして、部屋の中を見ながら母さまに聞く。
ベッドの上にも部屋にも、父さまの姿がない。
朝起きて、ベッドに母さま以外の人がいた時の、父さまの反応を見たかった。

「目を通さないといけない書類があるからって、早くに出て行ったよ」
「俺を見て怒ってた?」
「それがね、怒ってなかった。逆に心配してた。いつも元気で強いカエンが、俺達のベッドに来て甘えるなんて、何かあったのか?だって」

俺は、ぴょん!とベッドから飛び降りて、「ええ?」と大きな声を出した。
俺の着替えを持っていた母さまが、俺の服を脱がせてくれる。

「そうなの?絶対に『なぜここにいる!』って怒ってると思ってたよ」
「俺も。たぶんカエンが、俺じゃなくアルにくっ付いて寝てたから怒らなかったのかも…」
「え?俺…父さまにくっ付いてたの?」
「うん。ぎゅうっ!って。ちょっと羨ましかったな」
「うらやましい?」
「うん。カエンに抱きつかれてるアルにも、アルにくっ付いてるカエンにも。なんで二人とも俺じゃないの?って」
「カナっ」

シャツを着させてくれる母さまに、俺は抱きついた。
まだシャツのボタンもしまってないし、ズボンも履いてないけど、気にしないで抱きついた。
だって、母さまの顔が、とても寂しそうに見えたから!

「おおっと!どうしたの?早く服を着ないと風邪ひいちゃうよ?」

母さまが、後ろによろけそうになりながら、俺を抱きとめて笑う。
俺は、母さまの肩にぐりぐりと顔を擦りつけると、顔を上げて母さまに顔を近づけた。

「俺っ、カナが一番好きだよっ!父さまも好きだけど、カナが大好きだよっ!父さまにくっ付いてたのは、たまたまだよ。だからそんな寂しそうな顔しないでっ!」
「えっ?俺、寂しそうな顔してる?」
「…してる。カナは、時々そういう顔をするんだ。そんな顔のカナを見ると、俺…泣きたくなるんだ。…カナ、お願いだから、どこにも行かないでね。ずっと一緒にいてね」
「もうっ!本当に可愛いなあ!」

母さまが、俺のおでこにちゅーをして、強く抱きしめた。

「どこにも行かないよ!行くわけないじゃん!俺の居場所はここだし!もしも、アルに要らないって言われたとしても、カエンだけは一緒に連れて行くよ」
「ほんと?一緒だよ?父さまが、カナをいらないなんて絶対に言わないけどね!」
「ふふ、そうだね。じゃあ早く服を着ようか。今日もリリーと遊ぶんだろ?」
「うん!ねえ、今日は城の裏側に登ってもいい?」
「いいよ。でも護衛はつけるよ」
「わかった」

俺は、シャツのボタンをとめてズボンを履くと、洗面台で顔を洗って、母さまと手を繋いで部屋を出た。


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