炎の国の王の花

明樹

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「カエン…」

母さまが、僕の手を引いてどこかに連れて行く。
下を向いて泣きながらついて行くと、中庭に出て、泉の縁に座った母さまの膝の上に乗せられた。
母さまが、胸に僕を抱きしめて、優しく話しかけてくる。

「ごめんねカエン…。俺の黒髪に似てしまって。アルの赤い髪と似ていれば、カエンは顔も似てるからアルにそっくりになったのにね…。でもね、俺はこの髪が好きなんだ。アルがさ、いつも綺麗だって褒めてくれるから。カエン知ってる?黒ってね、何色にも染まらないんだ。そして全ての色を塗りつぶす強い色なんだよ。この世界には、他に黒髪の人がいなくて奇異な目で見られることが多かったけど、俺はこの髪が好き。カエンがアルの赤い髪がいいっていうのもわかるよ。俺もいいなって思った時あったもん。でも、黒髪も悪くはないんだよ?」
「うん…。カナ、ごめんなさい…」

鼻水をズルズルとすすりながら、母さまに謝った。
母さまは、更に強く俺を抱きしめて、何度も髪の毛を撫でた。

「いいよ。大丈夫。カエンは素直でいい子だね。もう泣かなくてもいいから。ほら、早く部屋に戻ってパンを食べよっか。アルもそろそろ戻ってるんじゃないかな?」
「うん、食べるっ。俺は猫ちゃんのパン!」
「ふふ、あれ、可愛いよね」
「カナのも美味しそうだよ!」
「だろ?でも、絶対アルは、甘そうだって言って変な顔をするんだよ」
「甘いの、美味しいのにねー」
「ねー」

よいしょっと母さまが立ち上がり、俺を膝から下ろす。
そしてまた手を繋いで、繋いだ手を大きく揺らしながら歩き出した。



「アル!戻ってたんだ?」
「ああ。少し休憩したら会議があるがな。おまえ達はどこに行ってた?」
「休憩するなら、これ。一緒に食べようよ」
「なんだそれは」
「パンだよ!俺のパンは猫ちゃんなの!」
「ほう?」

部屋に戻るなり、父さまが話しながら母さまの肩を抱いてキスをする。
そして俺の頭を撫でて、母さまが持ってる袋を指差した。
俺が猫のパンの話をすると、父さまはきれいな顔で笑った。
でも、母さまに向ける笑顔とは違うんだ…。

母さまから袋を受け取って、中を覗いた父さまが、「可愛い猫だな」と母さまに笑顔を向ける。それは、すごくすごくきれいな笑顔で、父さまにとって母さまが特別だってよくわかる。

「で、これはどうしたんだ?料理人に作ってもらったものではないだろう?まさか…」
「えへ、ごめんね?ルートの店に行ってきちゃった」
「護衛は無しでか?」
「だってすぐそこだし」
「俺がカナを守るから大丈夫だよ!」

少し怖い顔で言う父さまに、母さまはけろりとして答える。
父さまは、たまに母さまのことを心配し過ぎて怒ることがあるけど、本気では怒らない。
だって父さまは、母さまのことがとっても大好きだから。
だから今も、怖い顔は一瞬だけで、すぐに困った顔で笑って母さまを抱きしめた。

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