炎の国の王の花

明樹

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番外編 芽吹き 70

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たっぷりと時間をかけて吸って満足したのか、アルファムが顔を離した。
シャツのボタンを元通りに留めて、俺にキスをする。

「ん…、アルの唇…甘いね…」
「おまえの胸が甘いからだ。止まらなくてつい吸い過ぎた。ちびカナが、また怒るな…」
「ふふ、そうかもね。でも先生が、ちびアルの成長を見て『充分に出てます』って言ってくれたし」
「そうか?ならまた吸って…」
「だめ!もうだめだから!」
「なぜだ」
「後はちびアルの分だから!それに…アルに吸われると…したくなる…から…」
「俺もだカナ。ちびカナのお披露目が終わったら、もう我慢しない。おまえを抱くぞ。医師からの許可ももらってある」
「…うん。あ、でもその前に早く名前を決めないと…」
「そうだな。カナは決めたか?」
「うん…。この子の一生のものだから、すごく難しいよね…」
「そうだな」

アルファムが、大きな手で俺の頬を優しく包む。
俺は、その手に頬を擦り寄せた。

「俺がいた世界には、たくさんの国と言語があってね…。その中の俺が知ってる言葉で、炎っていう意味の言葉がいいかな…って思って」
「うむ。何と言うのだ?」
「えっと、一つは俺が産まれた国の言葉で……」

アルファムが、優しく微笑んで俺の話を聞いている。
俺が提案した名前を、「どれも良くて迷うな」と喜んでくれる。
アルファムが考えた名前も素晴らしくて、俺とアルファムは、ちびアルの顔を眺めながら、一晩中考えた。
でも最終的に残った二つの名前のどちらかを選べなくて、お披露目の日まで考えることにした。



お披露目まであと五日と迫ったある日、俺とアルファムとちびアルの三人で、俺の好きな中庭に来た。
ちびアルを抱いて部屋のバルコニーに出たことはあったけど、ちびアルにとってはこれが初めての外出だ。
クッションを敷いた大きな籠にちびアルを寝かせて、その籠をアルファムが大事に抱えて中庭に来た。
ちびアルの誕生を、城の主な使用人や兵は知っているけど、まだ全員に知れ渡っているわけではない。
なので、なるべく目立たないで移動したい。

でも、今日はそんな心配はいらない。
なぜなら、街で祭りがあるからだ。
年一回の祭りらしく、少数の使用人や兵を残して、ほとんどの者が街に出ている。

「祭り…楽しそうだね。来年は、ちびアルを連れて見に行きたいな」
「そうだな。だが、王族の者が行っては皆が緊張して楽しめなくなる。行くならお忍びだな」
「うん。ここまで音楽が流れてくるね。きっと賑やかなんだろうなぁ」
「かなり大きな祭りだからな。しばらくはこの賑やかさが続くぞ。何しろ五日後には、ちびカナのお披露目がある。今日の祭りなど比べ物にならないほど、歓喜の声が溢れるぞ」
「だといいなぁ。こんなに可愛いんだから、きっと皆に愛されるよね?」
「もちろんだ。民に愛されているカナが産んだのだ。しかも同じ黒髪だ。皆が祝福してくれる」

東屋の長椅子にアルファムと並んで座って、ちびアルの顔を見ながら話す。
俺の腕の中のちびアルが、「あうー」と大きな声を出した。

「ちびカナ、五日後には、皆にその愛らしい笑顔を見せてやれ。城が揺れんばかりの歓喜の声が湧き上がるぞ」

「んっ」とタイミングよく上手に返事をしたちびアルに、俺とアルファムは声を出して笑った。


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