炎の国の王の花

明樹

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番外編 芽吹き 41

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その日の夕刻に、ホルガーの使いが戻って来た。
シアンに呼ばれて、アルファムとローラントが、バタバタと部屋を出て行く。
俺も行こうと腰を浮かすと、「カナは待っていろ。安静にだ!」とアルファムに釘を刺された。
俺は、これ以上アルファムに心配をかけさせたくないし、後で説明してくれるだろうと、不満ながらも部屋に留まった。
代わりにリオが部屋に来た。
窓際の椅子に並んで座り話をする。

「あの後も大変な目に合ったんだってね。大丈夫?」
「うん。アルにすぐ処置してもらったから。まだ少し赤くなってるけど、明日には治るだろうって」

俺は、シャツの袖をめくって腕を出す。
リオが、ほんのりと赤みを帯びた肌に触れて、顔を歪めた。

「これ…呪詛の魔法だって?初めて見たけどひどいよな。かけた方がそこまで力が強くなかったから、カナデは助かったけど、力が強い人がかけると、受けた相手は死んじゃうんだって」
「えっ!そうなんだっ…。怖い魔法だね…」

俺の袖を戻しながら、リオが今度は優しい顔をする。

「カナデは、ここまでされても、ベアトリクス様のこと、怒ってないみたいだね」
「…うん。なんでだろ?自分でもよくわからないや。悲しくは思うけど、不思議と腹が立たないんだよなあ」
「それはカナデがとても優しいからだよ、きっと。そういえば、カナデって怒ったことある?」
「あるよ!あるに決まってる!」
「どういう時?」
「……」

俺は、腕を組んで上を向いて考える。

俺が怒った時って…。
出会った頃の自分勝手で暴君なアルにとか。
同じように自分勝手なレオナルトにとか。
冷徹非道なバルテル王子にとか。
彼らの上を行く自己中なシルヴィオ王にとか。

「…王族が関わった時?」
「え?なんか言った?」
「…なんでもない。とにかく、俺だって怒ることもあるよ。アルやシアンやリオみたいな、俺の大切な人達が傷つけられたら、すごく怒る!」
「あはは!そっか。ありがとうカナデ。俺もそうだよ。だから今回のことはかなり怒ってる。アルファム様だってそうだろ?カナデの前では平静を装ってるけど、あれは滅茶苦茶怒ってるね」
「…知ってる。普通にしてるけど、いつも傍にいる俺はわかった。あんなに怖いアルは初めてだよ…」
「そりゃあそうだよな。何よりも大切なカナデが殺されそうになったんだから。あ、ところでさ、あの女の人とその弟だけど」
「うん。どうなったの?」

俺は、リオの方に少しだけ身を乗り出す。
リオがとても真剣な顔をするからドキドキとする。

「女の人は、操られていたから重い罪にはならない。だけど、自分の弟とカナデを井戸に突き落とした事実がある。だから、鞭打ちの刑に決まったよ」
「そう、なんだ…。許してあげて欲しかったな。だけど、この国の民を守る為の法があるよね…。俺の気持ちだけで物を言ったら駄目なのもわかってる。だから、仕方の無いことなんだね…」

深い溜息を吐いた俺の肩に、リオの手が置かれた。



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