炎の国の王の花

明樹

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番外編 芽吹き 31

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「カナデは相変わらず優しいね…。兄上の子供が出来たそうだね。おめでとう…」
「あ、うんっ。ありがとう。アルから聞いたの?」
「…いや」

ローラントが、そのまま口を噤んで下を向いてしまう。
代わりに、アルファムが口を開いた。

「ローラント、なぜ勝手に城に来た。シアンが動かないようにと言ってたと思うが?」
「はい…、申し訳ありません…」

絞り出すようなローラントの声に、本当にどうしたのかと不安になる。
俺がアルファムを見上げると、アルファムは、ポンと俺の頭を撫でて、「辛ければ休めよ」と優しく笑った。

「俺は大丈夫だよ。それよりも何があったのか知りたい。ローラントの様子も普通じゃないし。お願い、アル。誤魔化したり隠したりしないで全部話して」
「まあ、おまえはそう言うだろうとわかっていたが。おまえの体調に悪影響を与えそうで怖い」
「知らなくて悶々と考え込んでしまう方が身体に悪いよ」
「そう…だな。わかった。カナ、落ち着いて聞いてくれよ。心を乱したり大声を出したりするなよ?」
「大丈夫」

アルファムの前置きにどきどきする。
とてもショックなことを言われるんだと、俺はごくりと唾を飲み込んだ。

「カナ、おまえを井戸に突き落とそうとした真犯人がわかった」
「え?えっ!!だっ、だれっ!?」
「ベアトリクスという女。…ローラントの母親だ」
「え?」

ローラントのお母さん?
それって、間接的にだけどアルファムのお母さんの命を奪ったっていう…。
今は、この中央の城から遠く離れた地方の城に閉じ込められていると聞いている。
その城に、ローラントも一緒に住んでると言ってた。

「ベアトリクス…さんって言うんだね。ローラントのお母さんは。でも、遠くの城に幽閉されてるって…」
「そうだ。だが、俺の母親の事件から十年以上は経ってるからな。あの事件以降、ベアトリクスは、ローラントと穏やかに暮らしていた。俺とカナの結婚も祝福してくれていた。たぶん、俺とカナの間には子が望めぬから、ローラントの王位第一継承権は揺るがないと思い、安心していたのだろう。だが、子が出来ぬと思っていたカナに子が出来た。このことは、細心の注意を払って極秘裏に行ってきたが、隠し通せぬものだな。医師が吐き気止めや栄養薬を、頻繁に俺とカナの部屋に運ぶのを、医師の弟子が見ていたようだ。そのことをぽつりと知り合いの兵に話した。その知り合いの兵が、また別の知り合いの兵に話し、そうやってどんどん話が運ばれていった。大抵の者は、カナが病気なのではないかという心配をして終わりだ。だが、俺とカナの動向に注視する輩もいる。それは、ローラントを王にと望む、ベアトリクスの血縁の者達だ」

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