炎の国の王の花

明樹

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番外編 13

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リオは、使用人が出入りする扉の前で俺を降ろすと、「仕事があるから!」と走り去って行った。

「忙しいところをありがとう!」

そう叫んで、俺は扉を開ける。
なんか慌てて俺から逃げた気がしないでもないけど…と首を傾げながら外に出ると、門に向かうルートの後ろ姿が見えた。

「ルートっ、待って!」

走って追いかけたくても、足がまだ震えていてゆっくりとしか歩けない。
気ばかりが急いて足がもつれそうになった所を、俺の声を聞いて戻って来たルートが支えてくれた。

「おいっ、大丈夫か?…あ、ですか?」
「大丈夫だよ。ありがとう、ルート」

俺は、ルートの腕を掴んで笑顔を向ける。
ルートは、少し寂しそうに笑うと、すぐに俺から離れる。

「許可もなく触れてしまい申し訳ございません。あれから元気になられましたか?それともどこか悪くされて…?」
「俺は元気だよ。これは…その…ちょっと筋肉痛で…」

俯き加減にもごもごと呟いて、ルートを見上げる。

「ルート…昨日みたいに普通に喋ってよ。そんな他人行儀なの、嫌だよ…。最初はさ、変な人だなって警戒してたけど、ルートのお陰で気持ちが楽になったんだ。だから…ありがとう」
「…そんな大したことしてないよ。カナデ…、こんなことアルファム様に聞かれたら処刑されるかもしれないけど、俺さ、カナデのこと、ちょっと好きになりかけてた。内緒だぞ?それと、また辛いことがあったら俺の所に来いよ。幾らでも慰めてやるよ。昨日の店の向かい側が、俺の家だから」
「えっ!そうなの?向かいって…パン屋さん?」
「そ。俺の焼くパンは絶品だぜ。何も無くても、暇な時に城を抜け出して遊びに来いよ。好きなだけパンを食べていいからさ」
「ほんとっ?行きたい!絶対行くから…」
「どこにだ?」

突然、俺の背後から、低い声が聞こえた。
俺の背後を見たルートの顔が、青を通り越して白くなっている。
ゆっくりと振り返ると、アルファムが、怖い顔でルートを睨んでいた。

「おまえ、用が済んだならさっさと去れ。それともまだ我が妻に用が?」
「いっ、いえ!帰ります!失礼します!」

ルートは一礼すると、俺に苦笑いを向けて早足で門へ向かう。
その後ろ姿に向かって「またね!」と手を振った俺の腕を、アルファムが強く握った。

「アルっ、痛いっ」
「カナ、俺を差し置いて、あの男に会いに行くのか?」
「違うよ。パンを買いに行くんだよ」
「パン?」
「うん。ルート、パン屋さんなんだって。甘いパンとかあるかなぁ」
「城でもパンを焼いてるだろう」
「うん、毎日美味しいよ。でも、たまには違うのも食べてみたいじゃん。アル、俺のこと心配なの?じゃあ一緒に買いに行こうよ」
「……わかった。そのうちな」
「ほんと?ありがとう!」

俺は、アルファムの逞しい胸に抱き着いて、頬をすりすりと寄せる。
そして今度はアルファムの肩に手を置いて、口を尖らせる。

「アルのせいで足が震えて歩けない。抱いて連れて行って」
「甘えたな奴め」

アルファムは、ふ…と蕩けるような甘い笑顔で笑うと、軽々と俺を抱き上げた。


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