炎の国の王の花

明樹

文字の大きさ
上 下
163 / 432

王の花

しおりを挟む
「あれ?なあ、あんた。この世界には、俺と同じ黒い髪の人がいっぱいいただろ?なんでその人達を、代わりに生贄に選ばなかったの?」
「は?おまえはバカか?生贄は、誰でもいい訳では無い。おまえでないとダメなのだ。だから幾日も、イライラしながらここで待っていたのではないかっ」
「あ、そうなんだ…」


男の言葉を聞いて、何だか嬉しくなる。
だって、生贄になる条件が、黒髪であれば誰でも良かったなら、もしかして、アルファムと出会うのが俺じゃなかったかもしれない。
でも、生贄は俺じゃないとダメだったんだ。アルファムと出会うのも、俺じゃないとダメだったんだ。あれ?この考え方、おかしいかな?でも、何だかアルファムに選ばれたような気がして、アルファムと出会うことが運命だった気がして、嬉しくなったんだ。


「おまえ、何を笑ってる?ああ…そうか。ついに観念したのだな。さあ、今度こそ俺の為に死んでくれっ」


男はそう言うと、俺に向かって突進し、俺の身体に抱き着いて崖から大きく飛んだ。


「アルっ!今から戻るからっ。アルの元へ、帰るからっ!俺を受け止めてっ!」


眼前に広がる空に向かって、大きく叫ぶ。
途端にフッと目の前が真っ暗になり、ゆっくりと目を閉じる。閉じてすぐに瞼の向こう側が赤く染まり、慌てて目を開けると、すぐ目の前に、赤い炎の手が俺に向かって伸びていた。
俺は、両手を伸ばしてその手を掴む。
俺の身体に男の腕が巻きついていたけど、横から目映い白い玉が飛んできて、男の目にぶつかった。


「うわっ!な、なんだ!?」


男が、咄嗟に片手を離して目を押さえる。次に凄まじい勢いの水流が飛んできて、男の身体を弾き飛ばした。


「あっ!くそっ!」


男の手が、俺の身体から離れて落ちていく。男が必死で手を伸ばして、俺の足を掴もうとするけど、俺の身体は、力強く握られた炎の手によって、崖上へと引き上げられた。
男の身体が水流に押されて、海へと叩きつけられる。そして、落ちた場所にあった大きな渦に、あっという間に飲まれて消えた。


「あ…。沈んだ?それとも、またどこかの世界へ飛ばされた?」


小さくなっていく渦を見て、ポツリと呟いた俺の身体が、背後から力強い腕に抱きしめられた。
懐かしい温もりに大好きな匂い。俺の頬をくすぐる長い髪が、赤い色をしている。
ちゃんと、俺を受け止めてくれた。
夢で約束した通りに、俺、戻って来たよ。


俺は、大好きな腕の中で身体を反転させると、逞しい胸に顔を押し当てて、声を上げて泣き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

俺が総愛される運命って誰得ですか?

もふもふ
BL
俺が目覚めた時そこは、武器庫だった。あれ?ここどこだ?と思いつつドアを開けると...そこには見たことも無い光景があった。 無自覚主人公とイケメン騎士達の物語 ※はR18要素含みます 【注】不定期更新です!

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

処理中です...