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炎の国の 7
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颯人の家に居候させてもらうようになって、三週間が過ぎた。
まだ時おり目眩を起こすし、体調が優れない時には傷口も痛む。
中々本調子に戻らない身体に焦りながらも、颯人にパソコンを借りて、仕事を探し始めていた。
颯人が仕事でいない一人の時、時計の針の音だけが響く静かなリビングで目を閉じると、すぐに赤い髪の人の顔が浮かぶ。
『カナ』と呼ぶ低い声に甘さを含んだ緑色の目。
俺の中に愛しさが溢れて、胸が締めつけられる。
でも、彼の名前を口にしたいのに、思い出すことが出来ない。
俺は、腕輪とペンダントの赤い石を口元に寄せ、そっと口づける。
これらの石は、彼の髪の色と同じだ。ペンダントの石なんて、よく見ると、中に彼の目と同じ緑色が見える。
この石は、きっと赤い髪の彼が、俺にくれたんだ。もしかして、彼の大切な石だったのかもしれない。それを俺に持たせてくれたということは、とても愛されていたんだろうなぁ。
なんて、幸せなことを考えてみる。
でも、きっとそうだ。俺には愛された確かな自信があるから。まだ思い出せてないけど、心の奥には刻まれてるから。
「早く、会いたいなぁ…」
そう呟いて石を触ってるうちに、寝落ちをしてしまったらしい。
ふと目覚めた時には、部屋の中が薄暗く、外では激しい雨が降っていた。
「…めちゃくちゃ雨降ってる…。夕立かなぁ…」
寝転んでいたソファーからゆっくりと立ち上がり、窓の傍へ近寄る。
激しい雨がバチバチと窓に当たり、ベランダには水溜まりが出来ている。
颯人…傘持って行ってたっけ?
ふと気になって、玄関まで傘を確認しに行こうとしたその時、稲光が光って大きな落雷の音がした。
「ひっ、ひゃあっ!」
俺は、別に雷が怖いわけではない。
ただ突然だったから、驚いて思わず変な声を出してしまった。
「び、びっくりした…。結構近そう…」
そう呟くや否や、またバリッ!と大きく鳴る。
「こんな雨じゃ、傘さしてても濡れちゃう。雷も、こわ…い、し…」
俺はあることを思い出して、リビングの真ん中で、動きを止めた。
連続して、雷が眩しく光り激しく鳴る。
…そう、雷だ。あれは…白や黄色ではなく、黒い雷だった。
その黒い雷を出す魔法を使う、死神みたいな男。
そうだ。俺は、そいつに殺されかけたんだ。
火傷の痕が残る右手を見る。
これも、そいつの雷でやられた傷だ。
そいつが、言っていた。
俺を生贄として、異世界に呼んだのだと。
俺を殺せば、その異世界での王になれると。
そいつに殺されそうになって、そいつが王になるくらいなら…と、俺が自分でお腹を刺した。愛しい彼の剣で。
だって彼は、赤い髪の彼は。
炎の国、エン国の王、アルファムだから!アルファムに、世界の王になって欲しかったから!
「…アルファム…、アルファムだ…。アル…アル…っ!」
俺はその場にペタリと座り込み、顔を覆って泣き出した。
まだ時おり目眩を起こすし、体調が優れない時には傷口も痛む。
中々本調子に戻らない身体に焦りながらも、颯人にパソコンを借りて、仕事を探し始めていた。
颯人が仕事でいない一人の時、時計の針の音だけが響く静かなリビングで目を閉じると、すぐに赤い髪の人の顔が浮かぶ。
『カナ』と呼ぶ低い声に甘さを含んだ緑色の目。
俺の中に愛しさが溢れて、胸が締めつけられる。
でも、彼の名前を口にしたいのに、思い出すことが出来ない。
俺は、腕輪とペンダントの赤い石を口元に寄せ、そっと口づける。
これらの石は、彼の髪の色と同じだ。ペンダントの石なんて、よく見ると、中に彼の目と同じ緑色が見える。
この石は、きっと赤い髪の彼が、俺にくれたんだ。もしかして、彼の大切な石だったのかもしれない。それを俺に持たせてくれたということは、とても愛されていたんだろうなぁ。
なんて、幸せなことを考えてみる。
でも、きっとそうだ。俺には愛された確かな自信があるから。まだ思い出せてないけど、心の奥には刻まれてるから。
「早く、会いたいなぁ…」
そう呟いて石を触ってるうちに、寝落ちをしてしまったらしい。
ふと目覚めた時には、部屋の中が薄暗く、外では激しい雨が降っていた。
「…めちゃくちゃ雨降ってる…。夕立かなぁ…」
寝転んでいたソファーからゆっくりと立ち上がり、窓の傍へ近寄る。
激しい雨がバチバチと窓に当たり、ベランダには水溜まりが出来ている。
颯人…傘持って行ってたっけ?
ふと気になって、玄関まで傘を確認しに行こうとしたその時、稲光が光って大きな落雷の音がした。
「ひっ、ひゃあっ!」
俺は、別に雷が怖いわけではない。
ただ突然だったから、驚いて思わず変な声を出してしまった。
「び、びっくりした…。結構近そう…」
そう呟くや否や、またバリッ!と大きく鳴る。
「こんな雨じゃ、傘さしてても濡れちゃう。雷も、こわ…い、し…」
俺はあることを思い出して、リビングの真ん中で、動きを止めた。
連続して、雷が眩しく光り激しく鳴る。
…そう、雷だ。あれは…白や黄色ではなく、黒い雷だった。
その黒い雷を出す魔法を使う、死神みたいな男。
そうだ。俺は、そいつに殺されかけたんだ。
火傷の痕が残る右手を見る。
これも、そいつの雷でやられた傷だ。
そいつが、言っていた。
俺を生贄として、異世界に呼んだのだと。
俺を殺せば、その異世界での王になれると。
そいつに殺されそうになって、そいつが王になるくらいなら…と、俺が自分でお腹を刺した。愛しい彼の剣で。
だって彼は、赤い髪の彼は。
炎の国、エン国の王、アルファムだから!アルファムに、世界の王になって欲しかったから!
「…アルファム…、アルファムだ…。アル…アル…っ!」
俺はその場にペタリと座り込み、顔を覆って泣き出した。
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