炎の国の王の花

明樹

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日の国ディエス 8

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ゆっくりと街を見て周り、昼をかなり過ぎた頃に城に戻って来た。


花の鉢植えや服、小物類などを買って、気分が浮き立つ俺の足取りは軽かった。
服や小物類も、サッシャに「護衛に持ってもらえば?」と言われたけど、あまり人を使い慣れてない俺は、首を横に振った。
第一そんなに重くないものだし、俺とアルファムの大事なものだし。
嬉しそうに頻繁に袋の中を覗く俺を、サッシャが少し呆れた様子で見ていた。


本当は鉢植えも自分で持ちたかった。だけど、あのまま持っていたら、腕が痺れて早々に城へと戻る羽目になっていただろう。
長い時間、一人で持ってくれた彼には感謝しかない。
城に着いてすぐにお礼を言って鉢植えを受け取ろうとすると、男に拒否された。


「重いのにずっと持ってくれてありがとう。こっちに渡してくれる?」
「こんなのは重いうちに入りません。それにまだダメです。あなたの部屋はどこですか?そちらまで持って行きます」
「え?いやいや…っ、そこまでしてもらうのは悪いよっ。もう自分で運ぶから貸して」
「ダメです。こちらですか?」


手を差し出す俺の横をすり抜けて、男が廊下をドンドンと進んで行く。
困ってサッシャを見ると、サッシャも困った顔をして、男について行けという風に俺に手を振った。


俺は、仕方なく男の後ろを歩き始める。
リオがついてこようとしたので、俺は「疲れただろ?部屋で休んでいいよ」と笑って言う。
リオは、何か考えている風に無言で頷くと、他の護衛の人達にも、部屋で休むように伝え始めた。
その様子を見て顔を前に戻すと、男が廊下の先の角で待っているのが見えた。
俺は慌てて駆け寄り、今度は俺が先になって歩き出す。


「そちらもお持ちしましょうか?」
「え?ああ、大丈夫だよ。これは軽いから」
「軽いも重いも関係なく、持てと命令してくれていいのに」
「…俺は日の国の者ではないから、あなたに命令は出来ない。それに、人に命令をする立場でもないし…。自分で出来ることは自分でするよ。それでもどうしても出来ない時は、お願いして人の力を借りるけど」
「あなたは…カナデ様はお優しい。カナデ様、俺の名前はハマトと言います。俺は喜んであなたを手伝いますよ。どうか、困った時は俺の名前を呼んで下さい」
「…ハマト…」


颯人とハマト。顔や姿だけでなく、名前まで似てるのかと、また俺の胸が苦しくなる。
彼は、ハマトはとても優しい人のようだ。まるで、出会った頃の颯人みたいだ。
俺が困っていると、どこからともなく現れて助けてくれた颯人。
ハマトも俺を助けてくれると言う。そんなハマトを、どうしても颯人と重ねて見てしまう。
日の国での滞在期間は1週間。今日はまだ2日目だ。
俺は、平常心を保っていられるだろうか…。
俺は今、全身でアルファムを愛している。ここ最近は、颯人のことなんて微塵も思い出さなかった筈だ。なのに、颯人にそっくりなハマトを目の前にして、なんで心を乱してしまうのだろう。
いや、違う。思いがけず颯人にそっくりな人を見て、単に動揺しただけだ。

しっかりしろ、俺っ!

フッと短く息を吐き出すと、俺は前だけを見て歩き出した。
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