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帰還
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「山の国って…あの緑の髪の?」
「そうだ。ん?もしかして会ったのか?」
アルファムが、とても渋い顔をする。
「え…と、即位5周年の式典の前に、中庭にいたら、緑の髪の黒い軍服みたいなのを着た人が現れて…。なんか、話しかけられた」
「それで?」
「う…、しつこかったから逃げたよ…」
「ふ…ははっ!そうか、逃げたのかっ!ふむ、しかし困ったものだな。誰もがカナに興味を持つ。特に、こうも揃って王族等がカナを欲しがるとは…。もっと気をつけなければならない」
「俺なら大切なものを攫われるなどというヘマはしないがな」
ゆっくりと地上に降りたヴァイスに続いて、レオナルトの愛馬ラルクも降りて来た。
先に馬を降りて俺を抱き降ろすアルファムに向かって、レオナルトが憮然と言い放った。
それに対して、アルファムも冷たい声で言い返す。
「カナを二度も連れ去ろうとしたおまえの言うことなど、信用できない。それに、これからは大丈夫だ。必ずカナを守る」
「どうするのだ?カナデを城に閉じ込めるのか?」
「…それは…」
「大丈夫だよっ。俺、もっと練習して魔法も剣も使えるようにする。でも…やっぱり人を傷つけるのは嫌だから、攻撃じゃなくて防御の魔法を教えて欲しい…」
「カナ…。そういう躊躇する気持ちがあるから、伸びしろがあるのに上達しなかったんだな。わかった。城に戻ったら、すぐに練習を始めようか」
「うん」
レオナルトが、馬から降りて傍に来て、俺の髪の毛をスルリと撫でた。
「魔法が上達したら、俺の国に遊びに来い。至る所に澄んだ湖があって美しいぞ」
「え?いいの?行きたいっ。ねぇ、アルっ。行っていい?」
「…いいが、俺も一緒だ」
俺の髪に触れるレオナルトの腕を掴んで、ギロリと睨みながらアルファムが言う。
「王が来るなら国賓として迎えなければならないではないか。面倒臭いことだ。少しくらいの間、我慢したらどうだ?」
「馬鹿を言え。俺はつい先程、カナの傍から離れないと誓ったばかりだ。どんな事があろうとも、カナの手を離さないぞ」
「カナデ…。エン国王が鬱陶しくなったら、いつでも俺の所に来い」
レオナルトが、アルファムに掴まれた腕を振り解きながら、呆れたように言った。
俺は、文句を言い合いながらも、二人が実は気が合うんじゃないかと何だか嬉しくなって、ふふっと吹き出してしまう。
アルファムが俺の頬を摘んで、「なんだ?」と聞く。
「ううん。なんでもない。ところでさっきの…、山の国が襲撃して来たっていうのは…」
「ああ、あれな。カナ、少し待て」
そう言うと、アルファムは座り込んでいる人達の方を向いて、大きな声を上げた。
「日の国と炎の国の者達よ、シルヴィオ王が去って行ったとはいえ、ここはまだ月の国だ。怪我の治癒が済んでなくて辛いかもしれないが、炎の国まで移動してくれ。入って少し行けば城がある。そこでゆっくりと休める。さあ、行くぞ」
それを聞いた人達が、ぞろぞろと立ち上がり、怪我人を優先して馬に乗せて、炎の国へと向かい始める。
俺も、先に飛び乗ったアルファムに引っ張られながら、もう一度ヴァイスに跨って、今や俺の故郷とも言える炎の国を目指して進み始めた。
「そうだ。ん?もしかして会ったのか?」
アルファムが、とても渋い顔をする。
「え…と、即位5周年の式典の前に、中庭にいたら、緑の髪の黒い軍服みたいなのを着た人が現れて…。なんか、話しかけられた」
「それで?」
「う…、しつこかったから逃げたよ…」
「ふ…ははっ!そうか、逃げたのかっ!ふむ、しかし困ったものだな。誰もがカナに興味を持つ。特に、こうも揃って王族等がカナを欲しがるとは…。もっと気をつけなければならない」
「俺なら大切なものを攫われるなどというヘマはしないがな」
ゆっくりと地上に降りたヴァイスに続いて、レオナルトの愛馬ラルクも降りて来た。
先に馬を降りて俺を抱き降ろすアルファムに向かって、レオナルトが憮然と言い放った。
それに対して、アルファムも冷たい声で言い返す。
「カナを二度も連れ去ろうとしたおまえの言うことなど、信用できない。それに、これからは大丈夫だ。必ずカナを守る」
「どうするのだ?カナデを城に閉じ込めるのか?」
「…それは…」
「大丈夫だよっ。俺、もっと練習して魔法も剣も使えるようにする。でも…やっぱり人を傷つけるのは嫌だから、攻撃じゃなくて防御の魔法を教えて欲しい…」
「カナ…。そういう躊躇する気持ちがあるから、伸びしろがあるのに上達しなかったんだな。わかった。城に戻ったら、すぐに練習を始めようか」
「うん」
レオナルトが、馬から降りて傍に来て、俺の髪の毛をスルリと撫でた。
「魔法が上達したら、俺の国に遊びに来い。至る所に澄んだ湖があって美しいぞ」
「え?いいの?行きたいっ。ねぇ、アルっ。行っていい?」
「…いいが、俺も一緒だ」
俺の髪に触れるレオナルトの腕を掴んで、ギロリと睨みながらアルファムが言う。
「王が来るなら国賓として迎えなければならないではないか。面倒臭いことだ。少しくらいの間、我慢したらどうだ?」
「馬鹿を言え。俺はつい先程、カナの傍から離れないと誓ったばかりだ。どんな事があろうとも、カナの手を離さないぞ」
「カナデ…。エン国王が鬱陶しくなったら、いつでも俺の所に来い」
レオナルトが、アルファムに掴まれた腕を振り解きながら、呆れたように言った。
俺は、文句を言い合いながらも、二人が実は気が合うんじゃないかと何だか嬉しくなって、ふふっと吹き出してしまう。
アルファムが俺の頬を摘んで、「なんだ?」と聞く。
「ううん。なんでもない。ところでさっきの…、山の国が襲撃して来たっていうのは…」
「ああ、あれな。カナ、少し待て」
そう言うと、アルファムは座り込んでいる人達の方を向いて、大きな声を上げた。
「日の国と炎の国の者達よ、シルヴィオ王が去って行ったとはいえ、ここはまだ月の国だ。怪我の治癒が済んでなくて辛いかもしれないが、炎の国まで移動してくれ。入って少し行けば城がある。そこでゆっくりと休める。さあ、行くぞ」
それを聞いた人達が、ぞろぞろと立ち上がり、怪我人を優先して馬に乗せて、炎の国へと向かい始める。
俺も、先に飛び乗ったアルファムに引っ張られながら、もう一度ヴァイスに跨って、今や俺の故郷とも言える炎の国を目指して進み始めた。
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