炎の国の王の花

明樹

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水の国 3

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俺は唇を噛み締めて、顔を横に向ける。


ーーアルファ厶は俺を捜せない?…だとしたら、自力でこいつから逃げるだけだ。


小さく息を吐くと顔を元に戻し、レオナルトを見る。


「なあ、腰を治してくれるんだろ?早くしてよ。痛くて我慢出来ない」
「なんだ?急に素直になったな。何を企んでる?」
「なにも…。とにかく痛いんだよ。早くしてよ」


俺は身体を反転させて、うつ伏せになる。
レオナルトは、暫く黙って俺を見ていたけど、俺の上着とシャツをめくって、腰にそっと手を当てた。


「ほう…、白くて綺麗な肌だ。手触りもいい。痛む箇所はここか?」
「…うん」
「少し冷たいぞ…」


レオナルトが言った通り、まるで氷を当てられたかのように、レオナルトの手が触れている部分が冷たくなる。少し痛いと感じる程に冷たくなり、「う…」と声を漏らしてしまう。
直後に、ふ…と鼻で笑う気配がして、レオナルトの手が離れた。


「終わり…?」
「ああ。身体を起こしてみろ」


俺は腕を突っ張って、ゆっくりと身体を起こす。右に左にと腰を捻り、両手で腰を押してみると、すっかり痛みが消えていた。


「すごい…。治ってる…」
「容易いことだ。他の所も治してやろう」
「え?もう治っ…あ!」


レオナルトを振り返り、もういいと言おうとした俺の身体が押されて、またうつ伏せになる。レオナルトが、今度は俺のズボンを掴んで脱がそうとする。
俺は脱がされないようにズボンを掴んで、足をバタバタと動かして叫んだ。


「何するんだよっ!やめろっ」
「何って、治癒じゃないか。おまえ、尻も痛いんだろ?だからそこの椅子に座るのを嫌がったんだろ」
「…ち、違うからっ。もう治ったからいい!こんなことしてるうちに、俺の助けが来るからなっ!」


俺の言葉に、レオナルトの動きがピタリと止まる。


「ふむ…、それは困るな。仕方がない。尻の治癒は、国に戻ってからゆっくりとしてやろう。ナジャ」
「はい」


レオナルトが手を叩いて名前を呼ぶと、すぐにドアが開いてナジャが入って来た。


「食事は出来たか?ここへ運んでくれ」
「はい、すぐに…」


ナジャが深く頭を下げて、部屋を出て行く。
俺と変わらないくらいの年齢だろうに、とてもしっかりとしたナジャを、俺は感心して見た。


「ナジャが気になるのか?」


俺が身体を起こすのを手伝いながら、レオナルトが聞いてくる。


ーーどこかで聞いたことあるようなセリフだな…。あ、そっか。アルも同じようなことを言ってたな…。


アルファ厶を思って、俺の胸が痛くなる。
俺はベッドから降りてテーブルの傍へ行き、痛むお尻を我慢して、堅い木の椅子にゆっくりと腰掛けた。
レオナルトが俺の向かい側に座り、ジッと見てくる。
俺は心を読み取られないように目を逸らせて、窓の外を眺めた。


「ナジャ…だっけ?俺と同じ歳くらいなのに、しっかりしてるんだなと思って…」
「は?何を言ってる。ナジャは23だぞ。カナデは15、6ぐらいだろ」
「…うんまあ、分かってたけどね、そう言われるの。俺は22だ。もうちゃんとした大人だ」
「……うそだろ。…はっ!もしかしてカナデは、不老不死なのか?」
「………いや、違うよ?けど説明が面倒臭いから、もうなんでもいいよ…」
「そうか…。俺は何と尊いものを手に入れたのだ。国に戻って、心から大事に大切にしてやるぞ」


俺の話を聞かずに勝手に勘違いして話すレオナルトの言葉に、これもアルファ厶から聞いたことのあるセリフだなぁと、窓の外を見ながらぼんやりと思い返す。


ーーなんか、この国…いや、この世界の人達って、人の話をあんまり聞かないよね…。


もう一度大きな溜息を吐いたその時、窓の外に、見覚えのある大きな白い馬と、その上の黒いフードとマントを被った大きな男が近づいてくる姿に気づいた。
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