ふれたら消える

明樹

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 青と観る映画は、なぜか緊張した。いつもなら好みの映画を一緒に観て、後で感想を言い合うことが楽しみなのに。
 俺と青は無言で映画館を出て、青の斜め後ろをついて行く。
 目の前の大きな背中を見て、小さく息を吐く。やはり青は怒っている気がする。でも何に対して怒ってるのかがわからない。俺、なんかしたっけ?
 俺のため息が聞こえたのだろうか。青が足をゆるめて隣に来た。

「昊どうしたの?さっきの映画、つまんなかった?」
「いや、まあ面白かったと思う」
「ほんと?なんか口数が少ないから」

 いや、おまえのせいだろうが。おまえだって喋んねーじゃん。俺がそっと顔を上げると、青と目が合った。
 まだ何か言いたげな様子の青に、俺の鼓動が跳ねる。

「なに?」
「……聞いてもいい?」
「なにを」
「柊木…さん、ってなんなの?篠山みたいに昊のこと、好きなの?」
「は?なにそれ。ただの友達だ。気持ちわりーこと言うな」
「ごめん…」

 柊木の名前を出されてイラついた。青に対してじゃない。ぐいぐいと距離をめてくる柊木と、それを断れない俺に対して腹が立つ。
 しかし自分が怒られたと思ったのか、青が黙ってしまった。
 青の態度を見て、俺は少しだけ、あらぬ事を考える。もしかして青、嫉妬してる?俺と柊木のことを疑って…。はっ、そんなわけないか。青はきっと、兄が取られたように感じて寂しいだけなんだろう。そう考えて、今度は俺が悔しく感じて、目を逸らした青に俺を見て欲しくて、肩が触れそうな距離で歩いていた青の手を、そっと握った。
 思惑通り、青が驚いた顔でこちらを向く。
 俺はわざといたずらっぽく笑って、繋いだ手を持ち上げた。

「ほら、ここ人が多いじゃん。おまえが迷子にならないように、繋いでてやるよ」

 一瞬、青が泣きそうな顔をした…と思ったけど、青も俺と同じように意地悪に笑う。

「は?子供の頃に迷子になってたの、昊の方じゃん。それに昊は変な人に絡まれやすいから、俺が守ってやるよ」

 言葉の後に、青が意地悪な顔をやめて優しく笑った。それを見て俺は泣きそうになった。
 なんだよ、そんな顔するなよ。勘違いするじゃんか。おまえが俺を、兄としてではなく、好きなんじゃないかって。
 俺は笑みを消して、まっすぐに青の目を見つめた。ダメだ、言ってはダメだと脳内で俺が叫んでる。だけど想いがあふれてたまらなくなった俺が、口を開きかけたその時だった。

「あれ、青くん?何してるの?」

 すぐ真横から聞こえた声に、青がビクリと身体を揺らして俺の手を振りほどいた。
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