ふれたら消える

明樹

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「服、乾いてきた?」
「まあ乾いたんじゃねぇの?暑いから濡れたままでもいいけど」

 水族館からの帰りの電車の中で、柊木が自身のシャツをつまんで笑う。
 俺も湿った服に触れて、早く着替えたいと心の中で呟いた。
 久しぶりの水族館は楽しかった。青と一緒だともっと楽しめた。でもまあ、涼しい建物の中でいろんな魚を見ていやされた。そして柊木と見るのは乗り気じゃなかったけど、イルカショーも楽しかった。調子に乗って前列に座ったために、かなりの水をかぶったけど。水族館から駅までを歩く間に、髪も服もかなり乾いたけど、まだ湿ってはいる。だから早く家に着いてシャワーを浴びて、さっぱりして着替えて青の帰りを待ちたい。
 ふいに柊木の手が伸びてきて髪の毛を触られた。
 俺は驚いて肩を揺らして「なに?」と聞く。

「昊の髪、きれいだね」
「そう?普通の黒髪だけど。おまえのその茶髪、染めてるのか?」
「染めてない。自毛だよ」
「へぇ、染めなくてその色って、いいな」
「わあ、昊に褒められた。嬉しいな。俺さ、クォーターなんだよ。ばあちゃんがイギリス人」
「ああ、だから肌も白いのか」
「色白は昊もだろ?ほら、俺よりも白くない?透き通るようできれいだよね」

 柊木が俺の腕に腕を並べて、肌色を見比べている。電車の冷房で冷えた肌に、柊木の体温を感じてゾッとする。
 俺は「やめろ」と慌てて腕を離した。

「おまえさ、男にきれいとか言って、気持ち悪くねぇの?」
「なんで?きれいなものはきれいだろ?」
「…あと、あんまり俺に触るな。そういうの、嫌いなんだよ」
「あーごめん。俺、無意識なんだけどスキンシップが激しいみたい。ばあちゃんがそうだったからさ」
「まあ、それが悪いとは思ってねぇよ。ただ、俺は嫌だから」
「わかった。昊の嫌がることはしない」
「なあ、俺と友達になっても、めんどくさいだろ?嫌だと思ったら離れてくれていいから」
「思わないよ。めんどくさくもない。昊と、もっと仲良くなりたい」

 いつもどことなくヘラヘラしてる柊木が、真剣な顔で俺を見ている。優しい印象しかなかったけど、こういう顔をしていると怖く感じる。
 俺は返事に困って曖昧あいまいに頷くと、駅に着くまで行きと同じように扉にもたれて外の景色を眺めていた。
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