天狗の花嫁

明樹

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番外編 真葛 清忠の幸せへの道

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◇いつも銀から不憫な扱いを受ける清忠の恋愛話◇


二学期が始まって一週間が過ぎた頃、学校からの下校時に凛ちゃんと門を出ようとしたら、女の子に声をかけられた。


 「あ、あのっ、真葛くん…っ、ちょっといいかな?」
 「え?俺?」


振り向くと、小柄で肩までの髪の大きな目をした可愛らしい子が、俺をじっと見ていた。
よく見ると、胸の前で組まれた手が小さく震えている。
隣の凛ちゃんに目を向けると、にこりと笑って、「あ~、俺駅前のコーヒーショップで待ってるよ」と言って、手を振りながら門を出て行った。
俺は、凛ちゃんに「悪い」と謝って、彼女に向き直る。


 「え~っと、何かな?」
 「あ、ごめんっ。ここじゃあれなんで、ちょっと来てもらってもいい…?」
 「うん、わかった」


ふわりと笑う彼女に少しどきどきしながら、彼女の後をついて行った。
校庭の端の人が通らない場所まで来て、彼女が立ち止まり、俺の正面に立って、少し俯き加減に俺を見た。


 「あのっ、私、隣のクラスの加瀬 茉由(かせ まゆ)って言います。私、真葛くんのことが好きです!よかったら…付き合ってくれませんかっ?」
 「ええっ⁉︎」

一息に話し終えた彼女…加勢さんは、真っ赤な顔をして、俺を見つめていた。


ーーてか、え?俺を好きって言った?ウソ…マジでっ⁉︎こんな可愛い子が俺を…っ!


俺が感動を噛みしめていると、正面から「あの…」と窺うように加勢さんが声を出した。


 「あっ、ごめんっ。なんか好きって言われたのが嬉しくて…。てか、俺でいいの?」
 「真葛くんがいいんですっ。あの…ダメ、かな?彼女がいるの…?」


潤んだ瞳を向けられて、俺は力強く首を横に振った。


 「いないいないっ!んっ、コホンっ…。あの、俺でよければお付き合いしましょう。ただ、俺はまだ加勢さんの事をよく知らないので、好きかと聞かれれば何とも言えないけど…」
 「そんなのっ、わかってます。これから会う回数を重ねて、少しでも好きになってもらえればいいな…って思う…。じ、じゃあ、よろしくお願します…っ。はぁ~、どうしよう…。すごく嬉しいっ」


両手を頰に当てて嬉しそうに笑う彼女を見て、素直に可愛いいなぁと思った。


加勢さんと携帯番号とメールアドレスの交換をして、門で別れて、凛ちゃんが待つコーヒーショップへ向かう。この事を凛ちゃんに早く伝えたくて、俺は自然と走り出していた。


 「で?一体何の話だったの?」


早く凛ちゃんに話したくてコーヒーショップに駆け込んで来たものの、先ほどの出来事を頭の中で反芻してにやけるだけで、一向に話さない俺に痺れを切らした凛ちゃんが、少しイラついた顔で俺を見た。


その顔があまりにも怖くて、俺は内心『一ノ瀬さんに似てきたんじゃね?』と思ったが、そんな事を口走ったりしたら、すぐに一ノ瀬さんの耳に入って、俺は恐ろしい罰を受ける事になってしまう。だから俺は、「あ、コホンっ…。ご、ごめん。あのさ…」と、一つ咳払いをしてから話し出した。


俺の話を聞いていくうちに、凛ちゃんがだんだんと笑顔になって、話し終えた頃には自分の事のように喜んでいた。


 「清、良かったじゃん!可愛い彼女が欲しいって言ってたもんね。あの子、中々可愛かったよ?性格も優しそうだったし。へぇ~…、清に彼女かぁ。告白するってすごく勇気のいる事だよね?それをしてくれたって事は、その子、本当に清が好きなんだよ。まあ、清の気持ちが一番大事だけど、真剣に考えてあげなよ?」
 「もちろんそのつもりだよ。彼女…加勢さんって言うんだけど、一生懸命に気持ちを伝えてくれたしな。とりあえず、今度の休みにデートに誘おうかな、って思うんだけど、どこがいいと思う?」


凛ちゃんが、生クリームがたっぷり乗ったコーヒーフラペチーノを飲みながら、目を上に向けて考える。


 「俺はさ、銀ちゃんと一緒ならどこでも楽しいと思っちゃう。だから、きっと彼女も、好きな清と一緒なら、どこでも喜んでくれると思う。行く前に彼女に連絡して、清が考えた候補の中から選んでもらったら?」
 「そうだな…。いくつか考えて聞いてみるよ。いやあ、恋愛の大先輩がいると心強いっす。これからも、色々と相談してもいい?」
 「ふふ、いいよ。何でも聞いて。って言っても、俺の場合は特殊だから…」
 「凛ちゃん!」


思わず大きな声を出してしまい、そっと周りを窺ってから凛ちゃんに顔を寄せる。


 「凛ちゃん、恋愛に特殊もクソもないよっ。俺は正直、一ノ瀬さんと凛ちゃんがすごく羨ましい。だって、お互いをすごく想い合ってすごく強い絆で結ばれてて…。すっげー憧れる!だからそんな事、二度と口にしちゃダメだよっ?」
 「…わかった。ありがと…清」


ふわりと笑う凛ちゃんを見て、胸が詰まりそうになる。
あんなに一ノ瀬さんに愛されて、一ノ瀬さんの隣ではいつも幸せな表情の凛ちゃんだけど、俺の前では時々、ネガティヴな事を口にする。
一ノ瀬さんを愛していて、花嫁の契約まで交わしているのだから、一生添い遂げるつもりなのだろうけど、心のどこかでは、一ノ瀬さんに対して申し訳ないという気持ちがあるのかもしれない。


一ノ瀬さんは、天狗族の次期当主だっだ。だけど、当主にはなれなくなった。まあ本人がならないと決めたそうだけど…。凛ちゃんは口には出さないけど、それが、自分のせいだと思っている。凛ちゃんは、真面目で責任感が強いから、どんなに一ノ瀬さんが「凛のせいじゃない」と言っても納得しないのだろう。


俺は聞いただけで、実際目にした訳じゃないからよくわからないけど、凛ちゃんは、一ノ瀬さんの為に何度も危険に身を晒している。それを一度だって一ノ瀬さんのせいにした事はない。それだけじゃなく、自分を襲った相手まで、結局は許してしまってるんだ。
自分の事は置いておいて、いつも他人の為に精一杯頑張る凛ちゃんを、俺は尊敬する。だからもっと自分に自信を持って欲しい。例え、周りから何か言われたとしても、凛として跳ね除けて欲しい。


俺が凛ちゃんを見つめたまま、じーっと考え込んでいたから、ねだってる様に見えたのか、凛ちゃんが俺の前に、「はい、飲みたかったんだね」と、甘そうなコーヒーフラペチーノを差し出した。
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