天狗の花嫁

明樹

文字の大きさ
上 下
175 / 221

マーキング 5

しおりを挟む
銀ちゃんの言葉に、俺は嬉しくなった。銀ちゃんはいつも清忠をこき使うけど、それは愛情からで、やっぱり大事に思ってくれていたんだと笑顔で清忠を振り返る。
清忠は目に涙を溜めて、ふるふると震えていた。


「い、一ノ瀬さんっ、俺のこと心配してくれるんですか…っ。感激ですっ。凛ちゃんっ。凛ちゃんの旦那様はほんとにかっこいいよ!俺っ、これからもずっと、一ノ瀬さんについて行きます!」


俺も清忠と一緒になって頷いて銀ちゃんを見上げる。そして、複雑な表情になって、もう一度清忠を見た。


ずっと黙って様子を見ていた宗忠さんが、呆れたように小さく息を吐いて言った。


「清忠、おまえは妖狐一族だろうが。なぜ天狗一族に服従を誓ってるんだ。おまえは将来、我が一族の上位に着く身だ。いつまでもそこの天狗に付き従うな」
「そうだよ。清だって充分強くてかっこいいんだから、しっかりしなよ。それと銀ちゃん…、あんまり清をいじめちゃダメだよっ」
「え?え?」


戸惑う清忠に、俺は深く頷いてみせる。
俺は見たんだ。清忠が銀ちゃんに忠誠を誓ってる間、にやりと意地悪く笑みを浮かべる銀ちゃんを。
清忠のことを心配したのも本当だろうけど、銀ちゃんはとことん清忠をからかうのが好きみたいだ。


未だ意味がわからなくて首をひねる清忠を放置して、銀ちゃんが俺を抱いて立ち上がる。


「すぐに倉橋の神社に行きたいところだが、一旦帰って凛を休ませる。凛は一日、監禁状態にあって疲れている。休むように言ったんだが、清忠が心配だからと無理をして会いに来たんだ」
「えっ!そうだったのっ?」


清忠がガバリと起き上がり、布団を俺に指し示した。


「俺はもう全然元気だから、凛ちゃん、ここで寝る?」
「はあ?凛をおまえの匂いが付いた布団に寝かせれるわけないだろ。凛は俺の匂いが一番落ち着くんだ。倉橋、明日に神社へ行かせてもらう。世話になるぞ」


倉橋も立ち上がると、ポケットからお札を取り出して俺の手に持たせてくれる。


「どうぞ、お待ちしてます。椹木、家に帰ったらこれを玄関に貼っとき。椹木の匂いが隠せるねん。久世先生が来ても、椹木がいることに気付かへんで」
「へぇ…っ、すごい。ありがとう、倉橋。じゃあ、明日からよろしくね。清忠も、まだゆっくり休んでるんだよ」


あの時のひどい傷が嘘みたいに、元気な清忠の姿に安堵する。俺は、清忠と倉橋に手を振ると、そっと銀ちゃんの胸に頭を寄せた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

処理中です...