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鉄さんが近寄って来て、俺から銀ちゃんに視線を移して言った。
「僕は、いつも郷の事を一番に考えている。しろに負けないように勉強も頑張ってきた。だから僕は、力の限り、精一杯郷を守ると誓うよ。しろは、これからは凛だけをしっかり守ればいい。そもそも、昔におまえがやる気を出すようになったのだって、凛の為なんだろ?」
「そうだ。俺がここまで強くなれたのも、凛あっての事だ。凛に出会ったから頑張ろうと思えた。でなければ俺は、いつまでも不貞腐れて怠惰な日々を過ごしていただろう…。俺は凛に出会って、初めて世界が輝いて見えたんだ。凛は俺の全てだ。もちろん、郷の事も大事には思っているが、何よりも凛が大切だ」
銀ちゃんが、俺を見て愛おしそうに微笑んだ。
「それに…俺は元よりおまえが当主になるのが相応しいと思っていた。郷には、俺に対して反感を持つ者達がいるが、おまえに反感を持つ者は一人もいない。例え数人であっても、反対をされている俺が当主になっては駄目だ。ただ…結婚に関しては、おまえに好きな人がいるとしたら…すまないと思う」
「ふん…天狗一族は僕に任せてくれたらいい。結婚も誰が相手でもいいよ…。好きな人なんて…いないのだから…。でも、僧正の妹には悪い事をしたかな?しろじゃなく僕に代わってしまって…」
鉄さんは、少し寂しそうな顔で、再び俺に目を向ける。
「それは大丈夫だ。俺が言ってしまってもいいのかわからないが…、彼女は、ずっと昔からおまえが好きだったそうだ。一度、俺が監禁されている部屋に訪ねてきて、『絶対に結婚を承諾するな』と頼まれた。『私は鉄様以外と一緒になる気はない』と断言していた。だから、彼女はとても喜ぶと思うぞ」
「そうか…」
ふっと、息を吐いて小さく笑うと、今度は切ない表情になる。
「なら、僕も彼女の気持ちに応えるように努めよう。すぐに郷に戻って話をまとめてくる。しろの事で大騒ぎをしてるだろうから、それも鎮めてくるよ。おまえ達二人は、早く家に帰って手当てをしろ。全て収まったら報告に行くよ。僧正、郷に帰るぞ」
そう言うと、俺に向けていた視線を逸らし、鉄さんは、僧正に帰るように促した。
僧正は、頭をぽりぽりと掻きながら、小さく溜め息を吐いて立ち上がった。
「はいはい、帰るよ、次期当主様。しかしなんだ…あいつ、鉄が好きだったのかよ。だから、銀との結婚の話をした時に渋い顔をしたのか…。まあ、あいつが鉄を好きで、その鉄が次期当主になるなら、俺にとっちゃいい話だわな。はあっ、しかしくっそ面倒くせぇなぁ。郷に戻ったらもめるぞこれ…」
「僕が全部、何とかするよ。じゃあな、しろ。もう無茶はするなよ」
僧正が翼を広げて飛び上がると、降り続く雪を跳ね除けて飛んで行く。もう銀ちゃんに刺された足は、気にしていないようだった。前に、銀ちゃんが鉄さんに刺された傷が『すぐに治った』と言っていたように、きっと彼には大した事ではないんだろう。
そして後に続くように、鉄さんも翼を広げる。
俺は慌てて、鉄さんに声をかけた。
「鉄さんっ!助けてくれてありがとっ。鉄さんが傍にいてくれて…っ、俺は頑張れたよっ」
鉄さんは、俺に振り向いて「凛、……だ」と、何かを呟いた。
でもよく聞き取れなくて、俺が首を傾げた次の瞬間、顔に風が吹きつけてきた。翼を大きく羽ばたかせて、鉄さんがふわりと空へ舞い上がり、もう一度俺を見ると、ものすごい速さで飛んで行った。
「僕は、いつも郷の事を一番に考えている。しろに負けないように勉強も頑張ってきた。だから僕は、力の限り、精一杯郷を守ると誓うよ。しろは、これからは凛だけをしっかり守ればいい。そもそも、昔におまえがやる気を出すようになったのだって、凛の為なんだろ?」
「そうだ。俺がここまで強くなれたのも、凛あっての事だ。凛に出会ったから頑張ろうと思えた。でなければ俺は、いつまでも不貞腐れて怠惰な日々を過ごしていただろう…。俺は凛に出会って、初めて世界が輝いて見えたんだ。凛は俺の全てだ。もちろん、郷の事も大事には思っているが、何よりも凛が大切だ」
銀ちゃんが、俺を見て愛おしそうに微笑んだ。
「それに…俺は元よりおまえが当主になるのが相応しいと思っていた。郷には、俺に対して反感を持つ者達がいるが、おまえに反感を持つ者は一人もいない。例え数人であっても、反対をされている俺が当主になっては駄目だ。ただ…結婚に関しては、おまえに好きな人がいるとしたら…すまないと思う」
「ふん…天狗一族は僕に任せてくれたらいい。結婚も誰が相手でもいいよ…。好きな人なんて…いないのだから…。でも、僧正の妹には悪い事をしたかな?しろじゃなく僕に代わってしまって…」
鉄さんは、少し寂しそうな顔で、再び俺に目を向ける。
「それは大丈夫だ。俺が言ってしまってもいいのかわからないが…、彼女は、ずっと昔からおまえが好きだったそうだ。一度、俺が監禁されている部屋に訪ねてきて、『絶対に結婚を承諾するな』と頼まれた。『私は鉄様以外と一緒になる気はない』と断言していた。だから、彼女はとても喜ぶと思うぞ」
「そうか…」
ふっと、息を吐いて小さく笑うと、今度は切ない表情になる。
「なら、僕も彼女の気持ちに応えるように努めよう。すぐに郷に戻って話をまとめてくる。しろの事で大騒ぎをしてるだろうから、それも鎮めてくるよ。おまえ達二人は、早く家に帰って手当てをしろ。全て収まったら報告に行くよ。僧正、郷に帰るぞ」
そう言うと、俺に向けていた視線を逸らし、鉄さんは、僧正に帰るように促した。
僧正は、頭をぽりぽりと掻きながら、小さく溜め息を吐いて立ち上がった。
「はいはい、帰るよ、次期当主様。しかしなんだ…あいつ、鉄が好きだったのかよ。だから、銀との結婚の話をした時に渋い顔をしたのか…。まあ、あいつが鉄を好きで、その鉄が次期当主になるなら、俺にとっちゃいい話だわな。はあっ、しかしくっそ面倒くせぇなぁ。郷に戻ったらもめるぞこれ…」
「僕が全部、何とかするよ。じゃあな、しろ。もう無茶はするなよ」
僧正が翼を広げて飛び上がると、降り続く雪を跳ね除けて飛んで行く。もう銀ちゃんに刺された足は、気にしていないようだった。前に、銀ちゃんが鉄さんに刺された傷が『すぐに治った』と言っていたように、きっと彼には大した事ではないんだろう。
そして後に続くように、鉄さんも翼を広げる。
俺は慌てて、鉄さんに声をかけた。
「鉄さんっ!助けてくれてありがとっ。鉄さんが傍にいてくれて…っ、俺は頑張れたよっ」
鉄さんは、俺に振り向いて「凛、……だ」と、何かを呟いた。
でもよく聞き取れなくて、俺が首を傾げた次の瞬間、顔に風が吹きつけてきた。翼を大きく羽ばたかせて、鉄さんがふわりと空へ舞い上がり、もう一度俺を見ると、ものすごい速さで飛んで行った。
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