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悲嘆
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雪が思いの外積もっていて、早く走れない。気持ちばかりが急いて、動きの鈍い身体に焦りが募る。
ようやくいつも銀ちゃんと会っていた神社に着いた頃には、髪の毛も銀ちゃんとお揃いのパジャマも靴も、びっしょりと濡れていた。
俺は、構わず神社の裏から山に入る。
「銀ちゃんっ、どこっ?俺に会いに来てくれたんじゃないのっ?」
静かな山に俺の声だけが響き渡る。銀ちゃんの名前を呼び続けながら、どんどんと山の奥へ入って行った。
どれくらいの時間を歩いたのか、さすがに手足の先が冷えてじんじんと痛み、身体が寒さでぶるぶると震えてきた。
歯をカチカチと鳴らしながら歩いていると、見覚えのある場所に出た。
ーーここは、昔に銀ちゃんによく連れて来てもらっていた場所だ。という事は、天狗の郷の領域内には入れたんだ。このまま行くと、もしかして銀ちゃんがいる郷にも行けるかもしれない…。
寒さと疲れでふらふらとしてる上に、そんな事をぼんやりと考えていたから、俺は雪で足を滑らせてしまった。倒れた身体が雪に埋もれた斜面を滑り、途切れた地面から放り出される。
ーーあ…俺、また崖から落ちてる…。ほんと、馬鹿だな…。
自分でも呆れて笑いが漏れた。
ーーでも、もうこのまま死んでもいいや。
そう思って目を閉じた瞬間、俺の身体が抱き留められてふわりと宙に浮いた。
俺は、驚いてはっと目を開ける。でも後ろから抱きしめられているから顔がわからない。
俺のお腹に力強く回された腕を握りしめ、震える唇を開いて声を絞り出す。
「ぎ、んちゃん…?」
崖の上に降り立つと、俺は緩んだ腕の中でゆっくりと振り返り上を見上げた。
俺を力強く抱き留めてくれたのはーー。
「あ……、な、なんで…?…なんで、俺を助けるのっ?何回も俺を殺そうとしたくせに…っ、なのに、なんでっ!」
俺を抱き留めた腕は、鉄さんのものだった。散々、俺を殺そうとしたくせに。今更どうして俺を助けるのだろう。
俺は苦しさに顔を歪めて、ある事に思い至る。
「もしかして…殺すよりも、生かしてもっと俺を苦しめたかったの?ぼろぼろの俺を見たかったのっ?お、俺はもう…心も身体もっ、全部ぼろぼろだよ!辛くて死にそうだよっ!もうこれ以上…俺を苦しめないでよ…っ」
俺は、鉄さんの着物を強く掴んで、彼の胸に額を押し当てて叫んだ。
はあはあと呼吸が速くなり、息が苦しくなる。でもまだ、聞きたい事があるんだ。俺はぐっと身体に力を込めると、鉄さんを見上げて聞いた。
「ねぇ、教えて…。銀ちゃん…のっ、結婚、が…決まったって、ほんと?俺以外の、誰かと…結婚…するの…っ?」
すると、今まで無表情に俺を見ていた鉄さんが、微かに顔を歪めて、ゆっくりと口を開いた。
「ああ…決定した。春には婚儀を挙げる事になる…」
「…っ!あ…や、だ…っ、そんなの…やっ、はあっ、はあっ…」
急速に呼吸が速くなり息が出来なくなる。手足の先が痺れて目の前がチカチカと白く点滅する。
このまま天狗の郷へ行って、銀ちゃんに真相を聞きたい。鉄さんに連れて行ってくれるように頼みたいのに、俺の意識が深い闇に飲まれていく。
意識が途切れる寸前、震える俺の身体が、鉄さんに強く抱きしめられた気がした。
ようやくいつも銀ちゃんと会っていた神社に着いた頃には、髪の毛も銀ちゃんとお揃いのパジャマも靴も、びっしょりと濡れていた。
俺は、構わず神社の裏から山に入る。
「銀ちゃんっ、どこっ?俺に会いに来てくれたんじゃないのっ?」
静かな山に俺の声だけが響き渡る。銀ちゃんの名前を呼び続けながら、どんどんと山の奥へ入って行った。
どれくらいの時間を歩いたのか、さすがに手足の先が冷えてじんじんと痛み、身体が寒さでぶるぶると震えてきた。
歯をカチカチと鳴らしながら歩いていると、見覚えのある場所に出た。
ーーここは、昔に銀ちゃんによく連れて来てもらっていた場所だ。という事は、天狗の郷の領域内には入れたんだ。このまま行くと、もしかして銀ちゃんがいる郷にも行けるかもしれない…。
寒さと疲れでふらふらとしてる上に、そんな事をぼんやりと考えていたから、俺は雪で足を滑らせてしまった。倒れた身体が雪に埋もれた斜面を滑り、途切れた地面から放り出される。
ーーあ…俺、また崖から落ちてる…。ほんと、馬鹿だな…。
自分でも呆れて笑いが漏れた。
ーーでも、もうこのまま死んでもいいや。
そう思って目を閉じた瞬間、俺の身体が抱き留められてふわりと宙に浮いた。
俺は、驚いてはっと目を開ける。でも後ろから抱きしめられているから顔がわからない。
俺のお腹に力強く回された腕を握りしめ、震える唇を開いて声を絞り出す。
「ぎ、んちゃん…?」
崖の上に降り立つと、俺は緩んだ腕の中でゆっくりと振り返り上を見上げた。
俺を力強く抱き留めてくれたのはーー。
「あ……、な、なんで…?…なんで、俺を助けるのっ?何回も俺を殺そうとしたくせに…っ、なのに、なんでっ!」
俺を抱き留めた腕は、鉄さんのものだった。散々、俺を殺そうとしたくせに。今更どうして俺を助けるのだろう。
俺は苦しさに顔を歪めて、ある事に思い至る。
「もしかして…殺すよりも、生かしてもっと俺を苦しめたかったの?ぼろぼろの俺を見たかったのっ?お、俺はもう…心も身体もっ、全部ぼろぼろだよ!辛くて死にそうだよっ!もうこれ以上…俺を苦しめないでよ…っ」
俺は、鉄さんの着物を強く掴んで、彼の胸に額を押し当てて叫んだ。
はあはあと呼吸が速くなり、息が苦しくなる。でもまだ、聞きたい事があるんだ。俺はぐっと身体に力を込めると、鉄さんを見上げて聞いた。
「ねぇ、教えて…。銀ちゃん…のっ、結婚、が…決まったって、ほんと?俺以外の、誰かと…結婚…するの…っ?」
すると、今まで無表情に俺を見ていた鉄さんが、微かに顔を歪めて、ゆっくりと口を開いた。
「ああ…決定した。春には婚儀を挙げる事になる…」
「…っ!あ…や、だ…っ、そんなの…やっ、はあっ、はあっ…」
急速に呼吸が速くなり息が出来なくなる。手足の先が痺れて目の前がチカチカと白く点滅する。
このまま天狗の郷へ行って、銀ちゃんに真相を聞きたい。鉄さんに連れて行ってくれるように頼みたいのに、俺の意識が深い闇に飲まれていく。
意識が途切れる寸前、震える俺の身体が、鉄さんに強く抱きしめられた気がした。
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