天狗の花嫁

明樹

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大切な友達

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俺の話を聞き終えて、清忠が難しい表情で天井を仰ぐ。
腕組みをして「う~ん」と唸る清忠に、俺の不安な気持ちが増した。


「清…、清も俺から離れる?俺のこと、憎いと思う?」


力なく吐き出された俺の言葉に、清忠は目を見開いて声を荒げた。


「はあっ?何言ってんだよっ!俺が凛ちゃんから離れるわけないだろっ。大事な友達なんだから!憎いなんて思わない。むしろ大好きだっ!」
「清……ありがと…」


清忠も浅葱と同じ事を言ってくれた。俺の目の奥が熱くなり、堪えていた涙がぽろりと零れ落ちる。


「まあ、俺ら妖狐も陰陽師とは少なからず因縁がある。陰陽師に消された妖狐もいる。けど、逆に妖狐に殺された陰陽師もいるんだから、お互い様じゃね?それを現在までずるずると引きずって、ぐちゃぐちゃ言ってる天狗族もどうかと思うけどな。それに、凛ちゃんのばあちゃんが陰陽師の家系だったとしても、凛ちゃんには関係なくない?と、俺は思うよ。なあ凛ちゃん、その術とかいうの、一回俺にかけてみてよ」
「えっ!そんなの嫌だよ…。もし清に何かあったらどうすんだよ…」
「大丈夫だってっ。だって、その鉄とか言う奴も、ちょっと痺れただけだって言ってたんだろ?効いたとしても大した事ないって。お願いっ。ちょっとやってみて?」
「…もうっ、知らないからな…」


清忠の突拍子も無い頼みに、俺はのろのろと身体を起こすと、渋りながらも信州のあの時のように、指を組んで術を唱えた。


術を唱え終わり、清忠を見る。清忠はキョトンとして「え、終わり?」と聞いてきたので、俺は小さく頷いた。
清忠は、しばらく顔を動かしたり腕を回したりしていたけど、俺を見て明るい声を出した。


「何だよっ。どうなるのかと、ちょっとどきどきしちゃったじゃん!全然何ともないんだけど。効いてないよ、これ。…たぶん、普段はそんな力があるわけじゃないのに、信州の時は殺されそうだったから、もしかしたら効いたのかもしれないな。ほんと、こんな普通の人間の凛ちゃんを、何で遠ざけようとするのかわかんないわ…」


優しく俺の髪を撫でて笑う清忠に、俺は少しだけほっとする。


ーーそっか、良かった。俺に妖を傷付けるような力がなくて。でも、例え自分の命が危なくなったとしても、もう二度と言わない。だから、銀ちゃん戻って来てーー。


俺は心の中でそう決意して、頷くように瞬きをする。また一つ、目尻に溜まっていた涙がぽろりと流れ落ちた。


もう一度、俺をコタツに寝かせて清忠が聞いてくる。


「なあ、一ノ瀬さんはすぐ帰って来るって言ったんだろ?『凛ちゃん命!』のあの人が、こんな何日も凛ちゃんを放っておくのはあり得ないんだよなぁ。俺が思うには、郷から出られないように、他の天狗に閉じ込められたりしてるんじゃないかな?」
「でも、銀ちゃんは郷の中でも一番か二番くらいに強いはずだよ?閉じ込められたりするかな…」


清忠が、顎を指で挟んで難しい顔をする。


「う~ん…。そもそも凛ちゃんとの事を反対されてる郷に、なんで一人で戻ったんだよ?」
「何か八大天狗?とかいう人達が来るから、って浅葱が言ってた。郷に戻って来ないなら、その人達をここに来させるって聞いて、渋々出かけたんだ…」


清忠が、ぽんっと両手を叩いて俺を指差した。


「八大天狗!それだよっ。一ノ瀬さんがどんなに強くても、八大天狗全員にかかられたら身動き取れないよっ。凛ちゃん、一ノ瀬さんは、帰りたいのに帰れなくなってるんだよ。きっと今頃、凛ちゃんの所へ帰る為に必死になってると思う。俺は、一族の中で天狗の知り合いがいる奴に、天狗の郷で何が起こってるのか探ってもらうわ。凛ちゃんは一ノ瀬さんを信じて待ってな」
「そっか…うん…。清、ありがと。俺…もしかして銀ちゃんは、俺の事もういらないのかなって、ちょっと不安になってたけど、なんか元気が出てきたよ…」
「はあっ?一ノ瀬さんが凛ちゃんをいらないと思うなんて、絶対にないっ!あの人の凛ちゃんへの執着はすごいよ?怖いよ?まあ、今は一人で不安になるのも仕方ないけど、信じて待ってようよ、な?」


清忠の力強い言葉に、俺の沈んだ気持ちが浮上する。


ーーそうだ。清の言う通り、銀ちゃんは郷から出られないのかもしれない。俺の味方だと言った浅葱も、同じように出れなくなってしまったのかもしれない。俺の足では郷には行けないのだから、銀ちゃんを信じて待つしかない。もしかして、時間はかかるかもしれないけど…。あんなにヤキモチ焼きの銀ちゃんが、俺をずっと一人にはしないはずだ……。


今までにあった数々の、俺を独占しようとする銀ちゃんの言動を思い出して、くすりと笑いが漏れる。
それと同時に銀ちゃんが恋しくなり、俺の胸が締めつけられて、かすかに眉をひそめた。
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