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束の間の休息
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この週末は、ずっと銀ちゃんの部屋で過ごした。
傷は銀ちゃんが治してくれたけど、紅茶の中に入ってた薬が俺にはかなり効いたようで、しばらくは足元がふらふらとしていた。そんな俺が心配だからと、銀ちゃんが自分の部屋から出してくれなかったんだ…。
あの騒動の二日後の日曜日に、清忠が俺を見舞いに来てくれた。あの日の内に、宗忠さんは実家に呼び出されて、今は謹慎中だそうだ。
圧倒的に力の強い妖が、大した理由もなく人間を襲ってはいけないルールがあって、今回それを破った事で、一族の偉い人である祖父に酷く叱責されたらしい。
「俺がチクったんだけどね…」
清忠がそう言って笑った。
そして、宗忠さんが俺を襲った理由というのが、昔に宗忠さんと銀ちゃんが喧嘩をした事があって、その時に大負けしたのをずっと根に持っていたかららしい。だから銀ちゃんが大事にしてる俺に手を出したんだ、って、清忠が呆れながら教えてくれた。
それとあの時、銀ちゃん達は天井をぶち破って入って来たらしく、清忠の家の屋根には大きな穴が開いてしまった。「今修理中だ」と、これも笑って言ってた。
ーーええ…、穴を開けるってどんだけ…。でも、それだけ必死に助けに来てくれたんだ…。
清忠には悪いけど、俺は驚くと共に、微かに顔がにやけてしまった。
月曜日にはふらつきも治まって、学校へ行くと言う俺の為に、心配性な銀ちゃんは、朝早くから浅葱さんを呼び出した。俺について行くように言われてるのを見て断りたかったけど、朝早くから来てもらってるのが申し訳なくて言い出せなかった。
「じゃあ、行って…くる…」
俺が玄関に立つと、銀ちゃんがいつものようにふわりと俺を腕の中に包む。俺は小さく溜息を吐いて、大人しく胸にそっと顔を寄せた。
ーーいつまでこれは続くんだろ…。困るんだよな…。この後いつも胸がどきどきする…。
「はーい、終わり。ほら、凛行くよ」
浅葱さんの明るい声に、はっとして銀ちゃんから離れる。浅葱さんは俺の背中を押して、銀ちゃんに手を振りながら玄関を出た。
「凛、毎朝大変だね~」
隣に並んで歩く俺を、浅葱さんが憐れむ様子で見てきた。
「や…まあ、俺を守るバリアーを付ける為ですから…」
「あ、そんな敬語使わなくていいよ。名前も呼び捨てで。同い年だしね。ふふん、バリアーねぇ…。わざわざあんな付け方しなくても…」
「え?他に付ける方法あるんで…あるの?
「う~ん、俺からは何も言えないわ。銀様に聞いてみてよ」
「ねっ」とすごくいい笑顔を向けられ、俺はそれ以上突っ込んで聞けなくなってしまった。
毎朝の事はまた銀ちゃんに聞くとして、他に気になっていた事があった。
「ねえ浅葱…、浅葱や織部さんは、銀ちゃんの事、銀様って呼んでるけど、銀ちゃんて偉い人なの?」
浅葱は目を丸くして俺を見た後に、ふっと目を細めて優しく笑う。
「そっか…。銀様は、凛には何も話してないんだね。家の事情に凛を巻き込みたくないからか、凛には関係ないと思ってるからか…。まあ、俺は前者だと思うけど。銀様はね、全ての天狗の頂点にいる方の息子なんだよ。謂わば、王子様だね。いずれ、俺ら天狗一族を取りまとめ引っ張っていってくれる方なんだ…」
「え…」
ーー俺が呑気に『ちゃん』付けで呼んでる銀ちゃんが…?『王子様』と言われてもぴんとこない…。
「…だから、様を付けて呼んでるんだ…。家の事情って、何か揉めてるの…?あ、ごめんっ。話せなかったらいい…」
「いいよ。俺は、凛も知ってた方がいいと思う。いつか、銀様の力になってもらいたいから。銀様の父上には弟がいてね、その弟が自分の息子を次の当主にと推してるんだ。年も銀様と数ヶ月しか変わらないし。それに銀様の翼って銀色だろ?俺ら天狗の翼は、皆、黒い。中でも、その息子、鉄(くろがね)様の翼は濃い漆黒色だ。その事を強く言ってくるんだよね…。実際、翼の色なんかより本人の実力が大事なんだけどね。実力なら銀様はダントツだよ!顔良し、頭良し、そしてもの凄く強い!銀様以上の人…天狗は現れないよ~、凛。ちゃんと捕まえとかないとっ」
「うん……えっ!な、何言ってんの?もう…。でも、銀ちゃん、花嫁の筈の俺が男だった事で、気まずくなってるんじゃ…」
俯いて小さく呟く俺の頭を、浅葱がぽんぽんと撫でた。
「大丈夫。凛は気にすることないよ。ただ、いざという時は、銀様の力になってあげてね。」
「もちろんだよっ。俺、銀ちゃんの為なら何でもするよっ」
「ぷっ、それ、銀様に聞かせてぇ~。超テンション上がるわ。…凛はいい子だな。俺、凛が大好きだよ」
浅葱が満面の笑みを浮かべて言ってる事が、またよくわからなかったけど、好きと言われたのが嬉しくて、俺は照れ臭いのを隠すように笑った。
傷は銀ちゃんが治してくれたけど、紅茶の中に入ってた薬が俺にはかなり効いたようで、しばらくは足元がふらふらとしていた。そんな俺が心配だからと、銀ちゃんが自分の部屋から出してくれなかったんだ…。
あの騒動の二日後の日曜日に、清忠が俺を見舞いに来てくれた。あの日の内に、宗忠さんは実家に呼び出されて、今は謹慎中だそうだ。
圧倒的に力の強い妖が、大した理由もなく人間を襲ってはいけないルールがあって、今回それを破った事で、一族の偉い人である祖父に酷く叱責されたらしい。
「俺がチクったんだけどね…」
清忠がそう言って笑った。
そして、宗忠さんが俺を襲った理由というのが、昔に宗忠さんと銀ちゃんが喧嘩をした事があって、その時に大負けしたのをずっと根に持っていたかららしい。だから銀ちゃんが大事にしてる俺に手を出したんだ、って、清忠が呆れながら教えてくれた。
それとあの時、銀ちゃん達は天井をぶち破って入って来たらしく、清忠の家の屋根には大きな穴が開いてしまった。「今修理中だ」と、これも笑って言ってた。
ーーええ…、穴を開けるってどんだけ…。でも、それだけ必死に助けに来てくれたんだ…。
清忠には悪いけど、俺は驚くと共に、微かに顔がにやけてしまった。
月曜日にはふらつきも治まって、学校へ行くと言う俺の為に、心配性な銀ちゃんは、朝早くから浅葱さんを呼び出した。俺について行くように言われてるのを見て断りたかったけど、朝早くから来てもらってるのが申し訳なくて言い出せなかった。
「じゃあ、行って…くる…」
俺が玄関に立つと、銀ちゃんがいつものようにふわりと俺を腕の中に包む。俺は小さく溜息を吐いて、大人しく胸にそっと顔を寄せた。
ーーいつまでこれは続くんだろ…。困るんだよな…。この後いつも胸がどきどきする…。
「はーい、終わり。ほら、凛行くよ」
浅葱さんの明るい声に、はっとして銀ちゃんから離れる。浅葱さんは俺の背中を押して、銀ちゃんに手を振りながら玄関を出た。
「凛、毎朝大変だね~」
隣に並んで歩く俺を、浅葱さんが憐れむ様子で見てきた。
「や…まあ、俺を守るバリアーを付ける為ですから…」
「あ、そんな敬語使わなくていいよ。名前も呼び捨てで。同い年だしね。ふふん、バリアーねぇ…。わざわざあんな付け方しなくても…」
「え?他に付ける方法あるんで…あるの?
「う~ん、俺からは何も言えないわ。銀様に聞いてみてよ」
「ねっ」とすごくいい笑顔を向けられ、俺はそれ以上突っ込んで聞けなくなってしまった。
毎朝の事はまた銀ちゃんに聞くとして、他に気になっていた事があった。
「ねえ浅葱…、浅葱や織部さんは、銀ちゃんの事、銀様って呼んでるけど、銀ちゃんて偉い人なの?」
浅葱は目を丸くして俺を見た後に、ふっと目を細めて優しく笑う。
「そっか…。銀様は、凛には何も話してないんだね。家の事情に凛を巻き込みたくないからか、凛には関係ないと思ってるからか…。まあ、俺は前者だと思うけど。銀様はね、全ての天狗の頂点にいる方の息子なんだよ。謂わば、王子様だね。いずれ、俺ら天狗一族を取りまとめ引っ張っていってくれる方なんだ…」
「え…」
ーー俺が呑気に『ちゃん』付けで呼んでる銀ちゃんが…?『王子様』と言われてもぴんとこない…。
「…だから、様を付けて呼んでるんだ…。家の事情って、何か揉めてるの…?あ、ごめんっ。話せなかったらいい…」
「いいよ。俺は、凛も知ってた方がいいと思う。いつか、銀様の力になってもらいたいから。銀様の父上には弟がいてね、その弟が自分の息子を次の当主にと推してるんだ。年も銀様と数ヶ月しか変わらないし。それに銀様の翼って銀色だろ?俺ら天狗の翼は、皆、黒い。中でも、その息子、鉄(くろがね)様の翼は濃い漆黒色だ。その事を強く言ってくるんだよね…。実際、翼の色なんかより本人の実力が大事なんだけどね。実力なら銀様はダントツだよ!顔良し、頭良し、そしてもの凄く強い!銀様以上の人…天狗は現れないよ~、凛。ちゃんと捕まえとかないとっ」
「うん……えっ!な、何言ってんの?もう…。でも、銀ちゃん、花嫁の筈の俺が男だった事で、気まずくなってるんじゃ…」
俯いて小さく呟く俺の頭を、浅葱がぽんぽんと撫でた。
「大丈夫。凛は気にすることないよ。ただ、いざという時は、銀様の力になってあげてね。」
「もちろんだよっ。俺、銀ちゃんの為なら何でもするよっ」
「ぷっ、それ、銀様に聞かせてぇ~。超テンション上がるわ。…凛はいい子だな。俺、凛が大好きだよ」
浅葱が満面の笑みを浮かべて言ってる事が、またよくわからなかったけど、好きと言われたのが嬉しくて、俺は照れ臭いのを隠すように笑った。
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