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21. きっと……私は迷わず、柚姫に血を与えてしまう。

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 それから、幾日か過ぎたある日のこと。

 登下校時も、あの格好でひたひたと後ろをついて来るものだから、珍しく剣道部の午後練が休みの遥香と一緒に帰っていると、

「柚姫、この前は深く追求しなかったけれど……悩みがあるでしょ」

 と、神妙な顔つきで言われた。

 どうやら、ストーカー被害に合っていると勘違いされたようだ。

 ……無理もない。

「ど、どうして?」

 柚姫は自然を装おうとしたが、顔の筋肉が引きつって、うまく笑えなかった。

 遥香が背後を確認する素振りを見せると、人影は電柱の陰へさっと移動した……。

「だって、怪しすぎるわよ!?」
「……」

 柚姫は返す言葉がなく、ぽりぽりと頬をいた。

「柚姫、本当に大丈夫なの……?」
「だ、大丈夫よ! 知ってる人だから……」

 遥香を安心させようと思っての発言だったが、その言葉は遥香の表情をますます深刻化させた。

「顔見知りの犯行ってこと……?」
「ごほっ……っ」

 柚姫は激しく咳き込んだ。

「何処の刑事ドラマよ! 大丈夫だってば」
「本当……?」
「うん、本当。あはは……」

 納得しない様子の遥香を何とか説得し、柚姫のマンションの前で別れる。

 徒歩通学の柚姫と違って、遥香は電車通学だ。

 駅へむかう遥香の姿が見えなくなると同時に、柚姫は大きく溜息をつく。

 怪しい人影を連れたまま、帰宅した……。



「トワ、大丈夫?」

 部屋に入るなり、ごろん、とベッドに仰向けになったトワを見て言う。

 完璧に武装していたとは言え、トワは吸血鬼だ。真夏の太陽がこたえないはずはない。

「大丈夫だ、これしき……」

 柚姫を心配させまいと、トワは起き上がる。

 柚姫は、ベッドの端っこにちょこんと腰を下ろした。

「ねぇ、トワ。そろそろ、血……欲しいんじゃない?」

 首を少し傾けて、トワを見る。

 すると、後ろからふわりと抱き締められた。

「それがどんなに危険か、分かって言っているのか……?」
「うん。トワになら、全部血を吸われてもいいよ」

 いつも言ってるじゃない、と微笑む。

「柚姫……」

 純粋な想いと甘い血の香りが、トワの吸血鬼としての本能を刺激する。

 柚姫の血を求めて月の色に輝く瞳が、物欲しげに柚姫を見つめた。

 唇を寄せ、そっと首筋に口づける。

「っ、あ……」

 痛みに反応した柚姫の小さな手を、トワは優しく包み込んだ。

 極力痛みを与えないように、柚姫の血を吸う。

 死の危険があると言っても、柚姫は決してトワをこばんだりしない。しかし、トワは一つだけ伝えられずにいた。

 死の……その一歩先へと、柚姫を連れて行ってしまう危険性があることを――

「……っ、柚姫」

 理性のたがが外れそうになる手前で、トワは柚姫の首筋から唇を離した。

 柚姫の血は、まるで甘美な罠のように、トワの理性を奪おうとする。

「静まれっ……」

 トワは、必死に自身に言い聞かせる。

 目先の欲望を抑え込むことで、その先にある大きな欲望を目覚めさせないようにした。

 腕の中でぐったりとする柚姫を、ぎゅっと抱き締める。

「柚姫の血を全て奪ってしまったら、きっと……私は迷わず、柚姫に血を与えてしまう」

 吸血鬼に血を吸われただけでは、人間が吸血鬼になることはない。

 だが、血を吸い尽くしてすぐに吸血鬼の血を与えれば、人であった時の記憶や性格を引き継いだまま、人間を吸血鬼にすることができる。

「柚姫は……」

 言いさし、トワは切なげに柚姫を見つめた。

 その事実を知れば、仲間になってもいい……と言ってくれるかもしれない。

 だから、トワはずっと伝えられずにいた。

 柚姫と共に永遠を生きたいと願う反面、柚姫をこんな呪われた宿命に引き込みたくないと思うから――
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