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18. 柚姫は、私が守る。

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 今宵の月は格別だと、トワは思った。

 一点の曇りもない夜空に、丸い月がぽっかりと浮かんでいる。

 そして、この部屋にもまた――……
 
 窓辺から離れ、柚姫の眠るベッドに、そっと腰を下ろす。

 静かな寝息が聞こえ、心の底からほっとする。

 失わなくて、よかった――……

 柚姫の髪に触れ、優しく手でく。

 柚姫を太陽のようだと思ったが、闇の中では転じて、夜空を照らす月のような存在……

 今宵の月は格別だと評したが、月を綺麗だと感じたこと……夜にも光があることすら見えていなかったことに、トワは今さらながら気がついた。

「まったく、気づかされてばかりだな」

 五百年も生きてきて、と自嘲気味に笑う。

「柚姫……」

 何の夢を見ているのだろうか。悪夢でなければ良いが……。

 そんなことを思っていると、

「トワ……」
「ん? ……寝言か。私の夢を見ているのか? 夢の中でまで構うとは、本当にお節介なやつだ」

 口ではこう言っているが、そんな柚姫のお節介が、内心、嫌いではない。

 むしろ、トワが惹かれているのは、そんなお節介とも言える、柚姫の優しさだった。

「しかし、この気配は……」

 柚姫の頭を撫でていた手の動きが、止まる。

 一転して、トワは緊張感を漂わせた。

 柚姫から微かに感じる気配。薔薇の香りにも似た、この甘い気配は――

「同族……」

 トワは低く呟いた。

 これは、吸血鬼が持つ特有の気配。

「だが、少し違う」

 同族は気配で感じとることができるが、柚姫に残された気配は、吸血鬼のそれとは少し違っている。

 吸血鬼か、それともまた別の種族か。

 何にしても、人ではない何か、だ。

 まぁいい……。

「ご丁寧に気配を残したということは、隠す気がないということだ」

 気配から察するに、力は互角か、それ以上……。

 力のある者ならば、その気配をうまく消すことも可能だ。しかし、この気配の主はそんな気はまったくないらしい。

 いや――まったく、というのはいささ語弊ごへいがある。

 柚姫に気配を残しつつ、単身の時は闇の眷属けんぞくとしての気配を消しているのだろう。そうでなければ、トワに気配が追えないはずはなく、柚姫が気配を持ち帰るまで気づけなかったはずもない。

「うまく使い分けている」

 トワは口角を持ち上げた。

 魔物としてのさがだろうか。あからさまな挑発に、心が高揚していく。

「柚姫は、私が守る」

 ぎり、と唇を噛みしめ、トワは神ではなく自分自身に誓った。

 柚姫の血を吸い尽くしたい欲望を抱く自分自身からも、守って見せると――
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