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7.親の因果が子に報う。以上、始めは猿の如く後は脱兎の如し
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少し顔を綻ばせたアニスは、きっと今は亡き両親の視線で己を見ているのだろう。
どうか、自分の両親の眼差しが最上の暖かさを帯びていることも感じて欲しいと、アネモネは強く祈る。
そして、再び自分自身が持つ気持ちを固める。
苦しい程に努力してきた結果、まだまだ未熟者であり辿り着きたい場所は遥か遠い場所にあることを確認したとはいえ、進む足を止めることはしないと。
これからもずっと、絶え間なく努力することを続けるし、自分勝手に限界を感じて諦めることもしない。
なんだかんだ言って、アネモネは単純にこの仕事が好きなのだ。
きっかけは、辛い現実から抜け出す唯一の方法だったのかもしれない。けれど、今ここに立つ自分は、この職に対して誰にも譲りたくはないという意思と強い誇りを持っている。
だから、まだまだ頑張れる。
一つ一つ絡まった糸が解れていくように、肉親の軋轢が消えていく様を惜しげもなく晒してくれるアニスを見つめ、アネモネは最後の旋律をゆっくりと奏でた。
唇から笛を離し、息を整える。
そこでアネモネは、人が持つ記憶や叶えられなかった願いや祈りをそっくりそのまま他人の心に伝えるこの職業が、なんで紡織師という名前なのか唐突に気付いた。
紡織とは、機を織ること。
人生は、それによく似ている。
生まれ、育ち、出会い、別れ、それらを糸に例えて人は人生と言う名の機を織る。
紡織師は、その手伝いをするのだ。出会う人達が織りなす布をより美しいものにするために。
だから移植師では駄目なのだ。もちろん、宅配師でも。
紡織師が忘れ去られる運命だとしても、届けた相手が幸せになれれば、そこに自分が確かにいたという証明になる。
これは、なかなか良いネーミングセンスだと、アネモネは上から目線で感心した。
「……ありがとう、アネモネ。それと先日は君を傷つけて、すまなかった」
静寂に満ちた部屋に響いたアニスのその声は、消えてしまいそうなほど弱々しいものだった。
─── 言うに事欠いて、それか。
アネモネは苦笑する。
次いで、ソレールが出会ってすぐに伝えた言葉を思い出してしまう。
【本当はとてもお優しい方なんだよ。でも繊細で不器用な部分もあって……時々誤解を生んでしまうんだ】
まさにそうだと、今なら頷ける。
そして薄給なのに、ソレールが彼のそばに居る理由もなんとなくわかってしまった。
「アニス様。ちゃんと届きましたか?」
「……ああ」
アネモネの問いかけに、片手で顔を覆った侯爵家当主はそのままの姿勢で頷いた。
声がくぐもっていたのは、俯いているだけではない。ソファに腰かけている彼の膝には点々と染みがあったから。
どうか、自分の両親の眼差しが最上の暖かさを帯びていることも感じて欲しいと、アネモネは強く祈る。
そして、再び自分自身が持つ気持ちを固める。
苦しい程に努力してきた結果、まだまだ未熟者であり辿り着きたい場所は遥か遠い場所にあることを確認したとはいえ、進む足を止めることはしないと。
これからもずっと、絶え間なく努力することを続けるし、自分勝手に限界を感じて諦めることもしない。
なんだかんだ言って、アネモネは単純にこの仕事が好きなのだ。
きっかけは、辛い現実から抜け出す唯一の方法だったのかもしれない。けれど、今ここに立つ自分は、この職に対して誰にも譲りたくはないという意思と強い誇りを持っている。
だから、まだまだ頑張れる。
一つ一つ絡まった糸が解れていくように、肉親の軋轢が消えていく様を惜しげもなく晒してくれるアニスを見つめ、アネモネは最後の旋律をゆっくりと奏でた。
唇から笛を離し、息を整える。
そこでアネモネは、人が持つ記憶や叶えられなかった願いや祈りをそっくりそのまま他人の心に伝えるこの職業が、なんで紡織師という名前なのか唐突に気付いた。
紡織とは、機を織ること。
人生は、それによく似ている。
生まれ、育ち、出会い、別れ、それらを糸に例えて人は人生と言う名の機を織る。
紡織師は、その手伝いをするのだ。出会う人達が織りなす布をより美しいものにするために。
だから移植師では駄目なのだ。もちろん、宅配師でも。
紡織師が忘れ去られる運命だとしても、届けた相手が幸せになれれば、そこに自分が確かにいたという証明になる。
これは、なかなか良いネーミングセンスだと、アネモネは上から目線で感心した。
「……ありがとう、アネモネ。それと先日は君を傷つけて、すまなかった」
静寂に満ちた部屋に響いたアニスのその声は、消えてしまいそうなほど弱々しいものだった。
─── 言うに事欠いて、それか。
アネモネは苦笑する。
次いで、ソレールが出会ってすぐに伝えた言葉を思い出してしまう。
【本当はとてもお優しい方なんだよ。でも繊細で不器用な部分もあって……時々誤解を生んでしまうんだ】
まさにそうだと、今なら頷ける。
そして薄給なのに、ソレールが彼のそばに居る理由もなんとなくわかってしまった。
「アニス様。ちゃんと届きましたか?」
「……ああ」
アネモネの問いかけに、片手で顔を覆った侯爵家当主はそのままの姿勢で頷いた。
声がくぐもっていたのは、俯いているだけではない。ソファに腰かけている彼の膝には点々と染みがあったから。
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