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6.癖ある騎士に能あり、かたや木を見て森を見ず
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ソレールが再びアネモネをぎゅっと抱きしめたところで、アニスは自分の主張を引っ込めざるを得ないことを知る。
そして自分の部屋で二人の世界に入ってしまった護衛騎士に対してアニスは苦く思う。けれど、それを口に出せば馬に蹴られることは目に見えている。
そんなわけで、現在進行形で床に串刺しになっているもう一人の護衛騎士に視線を移した。
「で、お前は自白を強要されたら毒でも飲めと言われたか?」
「ご名答です」
「そうか。なら、好きにしろ。だが、ここで死ぬなよ。俺の部屋に死体が転がるなど耐えられん」
「なら、コレ取ってくださいよ」
「……ソレールに頼め。俺は知らん」
「じゃあ、無理じゃないっすか」
寝そべった状態で、ティートはちらっ後輩を見た途端「ははっ」と乾いた声で笑った。
自分の部屋に穴を開けられ、かつ見たくもない部下のいちゃつきを見せられているアニスだって乾いた声で笑いたい。
でも、彼は貴族だ。今更ではあるが、あからさまに感情を表に出すのは恥である。
だから感情を抑える為に腕を組み、ティートに向け再び口を開いた。
「あのブラコン王子は、俺が純血統だとわかったら殺せと言っていたんだろ? だが、あいにく俺は第一王子であるソーブワート殿下と仲が良いんだ」
「でしょうね。でもフラン様はそれすら気に入らないみたいで」
「だろうな。で、俺はソーブワート殿下に言ってやったんだ。”あんたの弟が、俺を殺すような真似をしたら絶交だ”と」
「…… うっわぁ」
「ま、俺とて幼馴染の殿下と縁は切りたくない。つまりお前は、当分地下牢に軟禁だ。フランが謝ってきたら、自由にしてやる。毒もそれまでは飲むのを我慢しろ。酒なら幾らでもくれてやるから」
「あっ、じゃあ…… ヨイッバイル産のワインで!」
「くそっ、足元を見やがって。……で、毒はどこにある? それと交換だ」
「左側の上着の裏に」
実際のところティートは串刺しになってはいるが、両手は空いている。
だから本気を出せば、自分で剣を引き抜くことだってできるし、もう一度アニスを殺害しようとすればできる。
でも、敢えてそれを放棄した。
ティートは、もう不本意な命令を遂行する気は失せていた。
なぜだかわからないが、自分の中にあった殺意は消えている。妙に清々しい気持ちになっていた。
それはソレールが斬り込んだ瞬間、アネモネの手は袖口の隙間から覗いた彼の素肌に触れたから。
どす黒い負の感情は気泡となって浮かび上がり、それをアネモネは床に叩きつけられる瞬間、確かに握り潰したのだ。
ただそれを知っているのは、アネモネを除いて誰もいない。
ティート自身も自分の感情の変化に違和感を覚えていない。やることやって駄目だったから仕方がない程度に思っている。
言い換えるなら、今、ティートはとても自然にアニスの提案を受け入れているのだ。
そして負の感情が消えたことによって、ティートはアニスと新しい関係を築く第一歩を踏み出し始めた。
─── ま、これは追加料金を戴くところだけれど、チャービルから貰ったお菓子のお礼ということでサービスしてあげよう。
アネモネはソレールの胸に顔を埋めながら、照れ臭いと思う自分に、そんな言い訳をした。
そして自分の部屋で二人の世界に入ってしまった護衛騎士に対してアニスは苦く思う。けれど、それを口に出せば馬に蹴られることは目に見えている。
そんなわけで、現在進行形で床に串刺しになっているもう一人の護衛騎士に視線を移した。
「で、お前は自白を強要されたら毒でも飲めと言われたか?」
「ご名答です」
「そうか。なら、好きにしろ。だが、ここで死ぬなよ。俺の部屋に死体が転がるなど耐えられん」
「なら、コレ取ってくださいよ」
「……ソレールに頼め。俺は知らん」
「じゃあ、無理じゃないっすか」
寝そべった状態で、ティートはちらっ後輩を見た途端「ははっ」と乾いた声で笑った。
自分の部屋に穴を開けられ、かつ見たくもない部下のいちゃつきを見せられているアニスだって乾いた声で笑いたい。
でも、彼は貴族だ。今更ではあるが、あからさまに感情を表に出すのは恥である。
だから感情を抑える為に腕を組み、ティートに向け再び口を開いた。
「あのブラコン王子は、俺が純血統だとわかったら殺せと言っていたんだろ? だが、あいにく俺は第一王子であるソーブワート殿下と仲が良いんだ」
「でしょうね。でもフラン様はそれすら気に入らないみたいで」
「だろうな。で、俺はソーブワート殿下に言ってやったんだ。”あんたの弟が、俺を殺すような真似をしたら絶交だ”と」
「…… うっわぁ」
「ま、俺とて幼馴染の殿下と縁は切りたくない。つまりお前は、当分地下牢に軟禁だ。フランが謝ってきたら、自由にしてやる。毒もそれまでは飲むのを我慢しろ。酒なら幾らでもくれてやるから」
「あっ、じゃあ…… ヨイッバイル産のワインで!」
「くそっ、足元を見やがって。……で、毒はどこにある? それと交換だ」
「左側の上着の裏に」
実際のところティートは串刺しになってはいるが、両手は空いている。
だから本気を出せば、自分で剣を引き抜くことだってできるし、もう一度アニスを殺害しようとすればできる。
でも、敢えてそれを放棄した。
ティートは、もう不本意な命令を遂行する気は失せていた。
なぜだかわからないが、自分の中にあった殺意は消えている。妙に清々しい気持ちになっていた。
それはソレールが斬り込んだ瞬間、アネモネの手は袖口の隙間から覗いた彼の素肌に触れたから。
どす黒い負の感情は気泡となって浮かび上がり、それをアネモネは床に叩きつけられる瞬間、確かに握り潰したのだ。
ただそれを知っているのは、アネモネを除いて誰もいない。
ティート自身も自分の感情の変化に違和感を覚えていない。やることやって駄目だったから仕方がない程度に思っている。
言い換えるなら、今、ティートはとても自然にアニスの提案を受け入れているのだ。
そして負の感情が消えたことによって、ティートはアニスと新しい関係を築く第一歩を踏み出し始めた。
─── ま、これは追加料金を戴くところだけれど、チャービルから貰ったお菓子のお礼ということでサービスしてあげよう。
アネモネはソレールの胸に顔を埋めながら、照れ臭いと思う自分に、そんな言い訳をした。
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