二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜

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(ありがとう、リヒタスさん)

 フェルベラは演技ではない笑みを浮かべて、リヒタスを見上げる。

 自然と視線を絡ませれば、彼は尊い何かを見るように目を細めてくれた。あらまあ、演技がお上手だこと。

 なぁーんてフェルベラは勘違いしているが、リヒタスは本気である。

 あとフェルベラはもう満足しているようだが、リヒタスはまだまだ足りなかったりもする。

「騒がしい真似をして申し訳ありません。僕の婚約者の妹君シャーリー嬢の婚約者ーーロジャード・エリド殿。今日はお招きいただき感謝します」

 ずっと無言でフェルベラに向けて未練たらしい視線を向けていたロジャードは、リヒタスに声をかけられ、はっと我に返った。
 
「あ、いえ。ようこそ。今日は楽しんでください」

 棒読みでありきたりなことを言ったロジャードの視線はフェルベラに向けられている。

「僕の婚約者がそんなに綺麗ですか?」
「なっ……べ、別に」

 みっともなく狼狽えるロジャードに、リヒタスはにんまりと笑う。

「いえいえ、つい視線が向いてしまうのは無理がないです。わかりますよ、だって僕の婚約者は綺麗ですから」

 見るなと噛み付けば、子供だと思われる。気付かないふりをすれば、この先ちょっかいを出される可能性がある。

 だからリヒタスは敢えて、ロジャードの行動を肯定した。でも視線で「あと2秒見たら殺す」と脅すことは忘れない。

「僕はこんな素敵な婚約者に選ばれて、本当に幸せです。それでは、主役二人を独り占めしていたら他の招待客の皆さんに失礼ですから。これで」

 軽く一礼したリヒタスは完璧な所作で、フェルベラをホールの奥へとエスコートする。

 でも3歩、足を動かした途端、ロジャードに呼び止められてしまった。

「一応忠告しておくけど、彼女は気に入らない人間に飛び蹴りをする狂犬だ。これから先、苦労すると思うが頑張りたまえ」

 悔し紛れに吐いたロジャードのセリフは、シャーリー同様に我が身の失態を曝け出すものだった。

 思わず吹き出しそうになるリヒタスだが、ここはぐっと堪えて、お礼にとこんな言葉を贈った。  

「ご忠告どうも。さすが先週も、先々週もスネと脇腹に蹴りと拳を入れられた方の言葉は重みがありますね。でも、お相手はか弱いご令嬢じゃないですか。仮に痛めつけられたとしても、そう騒ぐことではないでしょう。それより、なぜそうされたかを考えるべきでは?ーーでは、失礼」

 さらっと婚約中にも関わらず浮気をしていたことを暴露されたロジャードは顔色を失う。

 すぐにシャーリーが鬼の形相で「どういうこと!?」と詰め寄り修羅場と化した。
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