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「改めて、はじめまして。リヒタス・ケーヌです。どうぞリヒタスとお呼びください」
「こちらこそはじめまして。フェルベラ・ウィステリアです。フェルベラとお呼びください」

 初対面では度肝を抜かれた二人だが、応接間のソファに向き合う頃には平常心を取り戻していた。

 暖炉の薪がパチパチはぜる中、二人は沈黙を誤魔化すために茶を啜る。

 ただ会話のネタが無いわけじゃない。むしろ有りすぎる。ありすぎて、一体どこから切り出せば良いのかわからない。

 けれど、互いの胸に抱えるネタはどれもこれも有耶無耶で終わらすべきではない。

「……あの……単刀直入に伺いますが」

 沈黙を破ったのはフェルベラだった。

 リヒタスはすかさずティーカップをソーサーに戻すと、「どうぞどうぞ」と続きを促す。

「リヒタス様のお歳はいくつですか?」
「今年17になりました」
「そうですか」

 つまり年下の青年は、この若さで愛人を望んでいるらしい。へぇ、マセてるじゃん。

 そんな気持ちは思いっきり顔に出ていたようで、リヒタスは慌てた様子で口を開いた。

「あ、あのっ。誤解をされているかもしれませんが、僕は独身です!それと先月までルグ領の領主は僕の父親だったんです。でも持病の腰痛が悪化して、急遽僕が当主になりました。あ、両親は今、静養の為に西の友人宅にいます。その……顔合わせできずに申し訳ありません」
「い、いえっ。そういうことだったんですか。あー……えっと、ご両親様の件はお気になさらず。それより一日も早くお父様の腰痛が良くなることを祈ってます」

 フェルベラは一先ず納得した。

 しかしリヒタスはまだ言い足りないようで、お茶を二口飲んでから再び口を開いた。

「フェルベラさんとの婚約は、父が決めました。17歳の僕が当主となれば若過ぎるせいで、色々軽んじられるかもしれない。見た目はこんな女の子みたいだし。だから、年上のちょっとやそっとじゃ物怖じしない頼りがいのある女性を探してまして」
「で、わたくしダチョウ女が選ばれたのですね」
「はい。……いっ、いえっ。ダチョウだなんて……あの失礼なことを言ってしまい申し訳ありませんでした」
「とんでもないです。わたくしこそ雪男などと言ってしまい申し訳ありませんでした」
「いえっ。雪男は父の代名詞だったし、僕が家督を正式に継いだのはフェルベラさんがこちらに向かう途中だったから、誤解するのは当然です!!」

 アタフタしながら頭を下げるリヒタスに、フェルベラも深く頭を下げる。

 ただこれで全ての誤解が解けたわけじゃない。

「あの、スバリ聞きますがわたくしがダチョウ女と呼ばれる経緯について……父からどう伺ってます?」

 悩んだ挙げ句どストレートにフェルベラが問うた途端、リヒタスは豪快にむせた。
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