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【番外編】二人の日常

ソレは時には媚薬になる……らしい①

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 これはまだファルナとグリジットが王都の森の診療所で、雪解けを待っている頃のおはなし。




 冬の季節の終わりを告げる最後の雪がしんしんと降る深夜、ファルナはキッチンでグリジットの為にお茶を淹れていた。

「ーー蜂蜜を小さじ一杯入れて、ジンジャーをちょっと……あと、仕上げにお酒を一滴入れる……っと」

 以前、雨の夜に眠れなかった自分の為にグリジットが淹れてくれたお茶を再現しようとファルナは頑張っている。

 でも、出来上がったお茶をティースプーンですくって舐めた途端、渋面になる。

「ぅうう……なんか違うなぁ」

 不味いわけじゃないのだが、あとちょっと何かが足りない。

「……お酒が足りないのかなぁ、それともハチミツが多かったのかなぁ……うーん」

 ブツブツ呟きながらファルナは、新しいティーカップにお茶を注ぐ。

 こんなこともあろうかと、お茶は多めに作っておいたのだ。今淹れたのは自分がスタッフ後で美味しく頂くことにしよう。

 ……ということで、ファルナはもう一度、同じ手順で淹れ直す。

 結果として、1回目と大差ないものが出来上がった。

 三度目の正直を実行しようかと悩んだが、時刻は深夜。グリジットが寝てしまっては元も子もないので、諦めて2度目に淹れたお茶を持って彼の私室に足を向けた。



 ーーコン、コン……ギィ。

「グリジットさん、お邪魔します」

 ひょっこりグリジットの部屋を覗くと、彼は文机で何やら書き物をしていた。

「――ん?……まだ、起きていたのか」

 驚いた顔をするグリジットに、ファルナはこくりと頷く。

 それから手に持っていたお茶の乗った盆を彼に見せる。

「グリジットさんにお茶をお持ちしました」
「それはありがたい。さ、こっちにおいで」

 おいでおいでをするグリジットに表情は柔らかい。

 身体を重ねて、気持ちを確かめ合ってから、グリジットは隠すことなくファルナを恋人として扱う。

 でもファルナは、まだ気持ちが追いついていない。だからおずおずと、これまでは言えなかった望みを口にする。

「あっ……あの、私も一緒にお茶を飲んでも良いですか?」
「もちろんだ」

 更に笑みを深くしてくれるグリジットにファルナは、ぱぁっと輝かせるとキッチンに戻って自分用のお茶を取りに戻った。
 




「――うまいな。この前教えたレシピ通りだ。いや、それより美味しい」

 ファルナの淹れたお茶を一口飲んだグリジットは、柔らかい声でファルナを褒める。でも、ファルナの表情は浮かない。

「そうでしょうか。私はグリジットさんに淹れてもらった時の方が美味しかったですけど……」

 むむっと顔を渋面を作るファルナにグリジットは声を上げて笑う。

 文机は書類でいっぱいだったから、現在二人は彼の部屋のソファで並んで腰かけている。

 ファルナは、隣に座るグリジットを見つめる。

 さらっとしたプラチナアッシュ色の髪に、深緑色の瞳。繊細な眉と鼻筋は相変わらず神経質そうに見えるけれど、出会った頃に比べて彼はたくさん笑うようになった。

(私と出会ったから、変わってくれたの……かな?)

 自惚れて良いなら、そうだと思いたい。

 などと考えながら、ファルナはグリジットにもたれてみる。服越しに彼の熱が伝わり、自然と口元に笑みが浮かぶ。

 対してグリジットは子猫がじゃれるような甘く優しい触れ合いでは満足できなくなっていた。
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