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閑話③ 突然の来訪者
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自室に飛び込んだファルナだったけれど、なんとか気持ちを切り替えて、お茶を淹れるためにキッチンに向かった。
けれど間の悪いことに、ちょうどグリジットと推定奥様は診察室から玄関ホールに向かう途中だった。
「─── ファルナ、どうしたんだい?」
不思議そうに目を丸くするグリジットは、いつまで経ってもお茶を出さなかったことに対して怒りの感情は無かった。
それどころか、キッチンに向かおうとするファルナに驚いてさえいた。
(先生は奥様との時間を邪魔されなくて良かった……なんて、思っていたり……うん、私がどうこう思っちゃダメだよね)
自分の立場をはっきり理解した今、ファルナは取る行動は一つしか無い。
「お客様にお茶を出さず申し訳ございませんでした」
お腹できちんと手を揃えて、ファルナは二人に向け深く腰を折った。
すぐに小さく笑う声が聞こえてきた。出来損ないの自分を笑っているのだろうか。ファルナは怖くて顔を上げることができない。
けれど無情にもご主人様であるグリジットは、ファルナに顔を上げるよう命ずる。
「ファルナ、ちょっと私はこのお方を送っていくから。すぐに戻る」
「……かしこまりました。どうぞお気をつけて」
ぎこちない笑みを浮かべてファルナが玄関ホールの扉を開ければ、グリジットは何か言いたげな顔をする。しかしその形の良い唇からは何も語られることはなかった。
けれどグリジットの奥様であろう女性は、ファルナに向け微笑みながら口を開いた。
「さっきは、驚かせてしまってごめんなさいね。でもわたくし貴方に会えて良かったわ」
艶のある唇が最後に意味深な笑みに変わって、それが何だか「二人の初夜のやり直しの実験台になってくれて、どうも」なんていう風に取れてしまったファルナは強く唇を噛む。
そして醜い自分の顔を見られたくなくて、ファルナはさっきよりも深く腰を折った。
***
奥様をどこかに送り届けたグリジットは自宅に戻ってきてから、すぐにファルナを自室に呼びつけた。
「─── 最近はちゃんと眠れているのかい?」
先ほどの失態を咎められるだろうと思っていたファルナは、執務机に着席しているグリジットからの斜め上の質問に、起立した姿勢のまま目を丸くした。
「は?……あ、はい。大丈夫です」
混乱する気持ちを抱えたまま、ファルナがこくこくと頷けば、グリジットは「……そうか」と呟く。
その表情が寂しそうに見えるのは、多分、自分の願望が見せているだけなのだろう。
「……先生、私……もう、大丈夫です」
「そうなのか?無理は」
「無理なんかしていません。それに……」
グリジットの言葉を遮ったくせに、急に語尾を濁したファルナにグリジットは訝しそうな顔をする。
「それに、なんだい?」
「いえ……なんでも……」
「そういうふうには見えない。答えなさい、ファルナ」
「……」
グリジットから厳しい口調で促されても、ファルナは頑として答えることはしなかった。
けれど間の悪いことに、ちょうどグリジットと推定奥様は診察室から玄関ホールに向かう途中だった。
「─── ファルナ、どうしたんだい?」
不思議そうに目を丸くするグリジットは、いつまで経ってもお茶を出さなかったことに対して怒りの感情は無かった。
それどころか、キッチンに向かおうとするファルナに驚いてさえいた。
(先生は奥様との時間を邪魔されなくて良かった……なんて、思っていたり……うん、私がどうこう思っちゃダメだよね)
自分の立場をはっきり理解した今、ファルナは取る行動は一つしか無い。
「お客様にお茶を出さず申し訳ございませんでした」
お腹できちんと手を揃えて、ファルナは二人に向け深く腰を折った。
すぐに小さく笑う声が聞こえてきた。出来損ないの自分を笑っているのだろうか。ファルナは怖くて顔を上げることができない。
けれど無情にもご主人様であるグリジットは、ファルナに顔を上げるよう命ずる。
「ファルナ、ちょっと私はこのお方を送っていくから。すぐに戻る」
「……かしこまりました。どうぞお気をつけて」
ぎこちない笑みを浮かべてファルナが玄関ホールの扉を開ければ、グリジットは何か言いたげな顔をする。しかしその形の良い唇からは何も語られることはなかった。
けれどグリジットの奥様であろう女性は、ファルナに向け微笑みながら口を開いた。
「さっきは、驚かせてしまってごめんなさいね。でもわたくし貴方に会えて良かったわ」
艶のある唇が最後に意味深な笑みに変わって、それが何だか「二人の初夜のやり直しの実験台になってくれて、どうも」なんていう風に取れてしまったファルナは強く唇を噛む。
そして醜い自分の顔を見られたくなくて、ファルナはさっきよりも深く腰を折った。
***
奥様をどこかに送り届けたグリジットは自宅に戻ってきてから、すぐにファルナを自室に呼びつけた。
「─── 最近はちゃんと眠れているのかい?」
先ほどの失態を咎められるだろうと思っていたファルナは、執務机に着席しているグリジットからの斜め上の質問に、起立した姿勢のまま目を丸くした。
「は?……あ、はい。大丈夫です」
混乱する気持ちを抱えたまま、ファルナがこくこくと頷けば、グリジットは「……そうか」と呟く。
その表情が寂しそうに見えるのは、多分、自分の願望が見せているだけなのだろう。
「……先生、私……もう、大丈夫です」
「そうなのか?無理は」
「無理なんかしていません。それに……」
グリジットの言葉を遮ったくせに、急に語尾を濁したファルナにグリジットは訝しそうな顔をする。
「それに、なんだい?」
「いえ……なんでも……」
「そういうふうには見えない。答えなさい、ファルナ」
「……」
グリジットから厳しい口調で促されても、ファルナは頑として答えることはしなかった。
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