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第四章

ぎゅっと詰まった話題とロールキャベツ②

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『大矢君、ちょっとヤバいかもしれないの』

 言いにくそうに切り出した香苗に、美亜はドキッとして言葉を失う。対して綾乃は、ただただ驚いた様子だった。

「大矢君って、あの一番人畜無害な人だったよね?それ本当?私、医者の方がヤバそうに見えたけど」

 言いたいことを完璧に代弁してくれた綾乃に心の中で感謝しつつ、美亜は香苗の返答を待つ。

「ううん。大矢君で間違いない。ジュンが教えてくれたんだ」
「ジュンって誰?」
「あ、合コンに来てた技師の人」
「えっと……鈴木さんっていったっけ。っていうか、浅見さんさぁ、ジュン呼びしてるってことは、もしかして付き合ってるとか?」
「うん。ちょっと前からね」
「嘘―。もー、今カミングアウトする!?ちょ、なんで?いつから??」
「それは、まぁーえーがねぇー」
「なんでそこ、なまる?」
「なんとなく」

 ポンポンと飛び交う綾乃と香苗の会話に、美亜は目を丸くする。そんなことが水面下で起こっていたんて全然、全く知らなかった。

 しかし香苗たちの馴れ初めも気になるところだが、今は博がどうしてヤバい奴と言われていることの方が知りたい。

 それは綾乃も同じ気持ちだったのだろう「浅見さんカップルの件は、後で詳しく教えてね」と念を押すと、香苗に本題に入るよう促した。

「大矢君って、実は前の病院で問題起こしているんだ。ただ医療ミスとかじゃなくって、元カノの親が乗り込んで来たみたいなの。『娘を返せ!』って」
「駆け落ち?」
「違うみたい。なんかそこにいた看護師情報によると、元カノが大矢君に傷つけられたみたいで、人格崩壊しちゃったみたいなんだよね。乗り込んできた人も、多分お母さんだと思うんだけど、髪の毛が真っ白で山姥みたいだったって」
「やば、DV?」
「たぶんね。それしか考えられないよ」

 香苗が顔を顰めたと同時にメイン料理が届き、ここで一旦会話が止まる。

 本日の肉料理は、ロールキャベツだった。美亜としてはちょっと物足りない。二人も同じ気持ちだったようで「肉っちゃ肉だけどねー」と苦笑している。

 でも、今はロールキャベツが肉料理に当てはまるかどうかより、全員、博の噂の方が重要だった。

「DVかもしれない大矢君なんだけね、実は懲りずに前の病院でも彼女作って……やっぱりその女の人、おかしくなっちゃったらしいの」
「つまり、DV確定男か。で、それも鈴木さん情報?」
「ううん。ちょっと知り合い手繰ってみたら、友達の友達の友達のお兄さんの友達の妹さんが、大矢君と付き合っていたみたいで、今、引きこもり中なんだって」
「へー。彼女お気の毒。あと浅見さんの情報網すごいね」
「ありがと、やっぱ独立考えるとコネとか大事だから」

 話し終えてスッキリしたのか、香苗は後れを取り戻すようにサラダを一気に平らげる。綾乃も同じく。

 けれども美亜だけは、なかなか食事を再開することができなかった。
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