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「取り乱して、すまなかった」
顔を覆っていた手を離してエルディックが、ぎこちなく笑いながら言った。
小さく首を横に振ると、彼は今度はホッとした笑みに変わる。
「逃げないで欲しい」
切実な声と、沈痛なまなざしは、こちらの胸が痛くなるほどで、彼がどれだけこの再会を待ち望んでいたのかを改めて知る。
「逃げません」
「そうか。ありがとう」
「いえ」
「あと俺を嫌わないで欲しい」
「あなたが私を嫌わなければ」
「何度も言ってるが嫌ってない」
「そうですね」
「ああ」
たどたどしい会話をしながらも、実はリシャーナの心は忙しい。
だって記憶は無いし自覚も無いけれど、エルディックから告白されたのだ。これ、有耶無耶にして良いのかな?いや、良いわけない。
「あの……告白の件なんですが」
「ああ、そうだ。そうだったな」
「返事をしないと」
「いや、いい……違う。待て、ちょっと待ってくれ」
「あ、はい」
手の甲を口元を当てたエルディックは顔を背けたかと思えば、今度は上着の襟をピンと正す。
再びこちらを向いた彼は、完璧な侯爵家嫡男の顔だった。
「失礼、お待たせしました。リシャーナ嬢」
「へ?」
急激な変化に付いていけないリシャーナに、エルディックは優美に微笑みかける。
「本日はお越しいただきありがとうございます。このエルディック・アラド、ずっと貴方と再会することを夢見てました。さぁ、どうぞこちらに」
言うが早いかエルディックは目を白黒させるリシャーナの手を優しく取ると、洗練された動作で椅子に座らせた。
されるがまま着席したリシャーナの前に、エルディックが片膝をつく。
「天候にも恵まれて良かったです。我が家の自慢の庭園を貴方に見て欲しくて、庭師も今日のために頑張りました。さて席も気に入っていただけたようですので、学生時代の昔話も交えながらこれまで私が、どれほそ貴方を乞うてきたか聞いていただきましょう」
「……はい?」
「ご安心ください。今日は貴方の好きなケーキを沢山用意しました。絶対に、退屈はさせません」
「え……え、ちょ、ちょっとお待ちを」
「待てません。今日の為に、私は持てる全てを使ってきたのです。あと頑なに貴方との席を拒んだお父様の胸倉を掴まなかった私を褒めてください」
「……っ」
「ははっ、冗談ですよ。ま、こういう冗談はお嫌いでしたか。以後気を付けます。ああ、貴方のお父様に対して私は尊敬の念を抱いてますよ。いずれ父と呼ぶお方ですしね?」
「ええ!?」
急に飛躍した話に驚くあまり、リシャーナは座ったまま飛び跳ねた。
そんな器用な芸を間近で見たというのに、エルディックは不思議そうに首を傾げた。
「そこまで驚く必要はありますか?なにせ今日はーー」
一旦言葉を切ったエルディックは、おもむろにリシャーナの手を取り己の口元に引き寄せた。
「生涯の伴侶を決める、お見合いなのですから」
そう言って指先に口付けを落としたエルディックの目は、あの日、図書室で見た時より鋭く情熱的な色を湛えていた。
◆◇◆◇おわり◇◆◇◆
最後までお読みいただきありがとうございました(o*。_。)oペコッ
顔を覆っていた手を離してエルディックが、ぎこちなく笑いながら言った。
小さく首を横に振ると、彼は今度はホッとした笑みに変わる。
「逃げないで欲しい」
切実な声と、沈痛なまなざしは、こちらの胸が痛くなるほどで、彼がどれだけこの再会を待ち望んでいたのかを改めて知る。
「逃げません」
「そうか。ありがとう」
「いえ」
「あと俺を嫌わないで欲しい」
「あなたが私を嫌わなければ」
「何度も言ってるが嫌ってない」
「そうですね」
「ああ」
たどたどしい会話をしながらも、実はリシャーナの心は忙しい。
だって記憶は無いし自覚も無いけれど、エルディックから告白されたのだ。これ、有耶無耶にして良いのかな?いや、良いわけない。
「あの……告白の件なんですが」
「ああ、そうだ。そうだったな」
「返事をしないと」
「いや、いい……違う。待て、ちょっと待ってくれ」
「あ、はい」
手の甲を口元を当てたエルディックは顔を背けたかと思えば、今度は上着の襟をピンと正す。
再びこちらを向いた彼は、完璧な侯爵家嫡男の顔だった。
「失礼、お待たせしました。リシャーナ嬢」
「へ?」
急激な変化に付いていけないリシャーナに、エルディックは優美に微笑みかける。
「本日はお越しいただきありがとうございます。このエルディック・アラド、ずっと貴方と再会することを夢見てました。さぁ、どうぞこちらに」
言うが早いかエルディックは目を白黒させるリシャーナの手を優しく取ると、洗練された動作で椅子に座らせた。
されるがまま着席したリシャーナの前に、エルディックが片膝をつく。
「天候にも恵まれて良かったです。我が家の自慢の庭園を貴方に見て欲しくて、庭師も今日のために頑張りました。さて席も気に入っていただけたようですので、学生時代の昔話も交えながらこれまで私が、どれほそ貴方を乞うてきたか聞いていただきましょう」
「……はい?」
「ご安心ください。今日は貴方の好きなケーキを沢山用意しました。絶対に、退屈はさせません」
「え……え、ちょ、ちょっとお待ちを」
「待てません。今日の為に、私は持てる全てを使ってきたのです。あと頑なに貴方との席を拒んだお父様の胸倉を掴まなかった私を褒めてください」
「……っ」
「ははっ、冗談ですよ。ま、こういう冗談はお嫌いでしたか。以後気を付けます。ああ、貴方のお父様に対して私は尊敬の念を抱いてますよ。いずれ父と呼ぶお方ですしね?」
「ええ!?」
急に飛躍した話に驚くあまり、リシャーナは座ったまま飛び跳ねた。
そんな器用な芸を間近で見たというのに、エルディックは不思議そうに首を傾げた。
「そこまで驚く必要はありますか?なにせ今日はーー」
一旦言葉を切ったエルディックは、おもむろにリシャーナの手を取り己の口元に引き寄せた。
「生涯の伴侶を決める、お見合いなのですから」
そう言って指先に口付けを落としたエルディックの目は、あの日、図書室で見た時より鋭く情熱的な色を湛えていた。
◆◇◆◇おわり◇◆◇◆
最後までお読みいただきありがとうございました(o*。_。)oペコッ
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