結婚式当日に花婿に逃げられたら、何故だか強面軍人の溺愛が待っていました。

当麻月菜

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捕獲された花嫁と、交渉する花婿

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 無事、花婿と花嫁が指輪の交換を終えたのを確認した神父は、おもむろに両手を掲げた。そして、こう言った。

「では、誓いのキスを」

 ───......は?キスですと??

 シャンティの頭は真っ白になった。
 けれど、これはシャンティの落ち度だった。

 なぜなら結婚式での誓いのキスは、最高にして最大の見せ場。これを省く結婚式など、イカサマでしかない。

 いや、偽装結婚式をしている時点でイカサマではあるが、それでもつつがなく終わらせようという意思があるかぎり、これを省くことは許されない。

 ただ、結婚に対してそこまで憧れを抱いていなかったシャンティは、自身の結婚式のプロセスをきちんを把握していなかった。

 だから、これは事前にギルフォードと何らかの打ち合わせをしなかったシャンティの過失である。でも、一縷の望みをかけて、ヨーシャ卿に視線を移す。

 ......そこには共に戦場を駆けた絆はとうに消え失せていた。

 シャンティの視界に写るのは、自分の首が繋がったことだけを喜ぶ夫と、夫の首が繋がったことだけを喜ぶ身勝手な夫婦がいるだけだった。

 とはいえ、シャンティは見ず知らずの男に「はいはいどうぞ」と差し出せる唇など持ってはいない。

「………ちょっとタンマ。フリでお願いします」
「………馬鹿、できるか」
「………えー」
「………えーじゃない。さっさと目を閉じろ」

 小声で要求を口にすれば、同じく小声で却下されてしまった。

 これを恐喝と呼ばずに何と言おう。

 シャンティはこれまた違う類の涙を浮かべてしまう。
 けれど、ギルフォードはやる気満々のご様子で、シャンティの腰に手をまわし顎を掴んでくる。

「……一瞬で終わるから大人しくしてくれ。頼む」
「……一瞬とか永遠とかそういう問題じゃないですよ」
「……なら犬に舐められたとでも思え」
「……あなたそんな体格で、良く自分のことを犬だなんて言えますね?」
「……じゃあ、虎か狼でも良い。とにかくそういうヤツに置き換えろ」
「……余計に怖いっ」

 そんなふうにシャンティは精一杯の抵抗をみせる。けれど、ここには誰もシャンティの味方はいなかった。

「早々に、誓いのキスを」

 慈悲のない神父の言葉に、シャンティは思わず黙れと睨む。
 けれど、神父は早く早くハリーハリーと視線だけで訴えてくる。

 やだもうっこの神父めっちゃ短気っ!とシャンティは心の中で悲鳴を上げる。

 だが、神父が誓いのキスをせっついたのはそれなりの理由があった。

「少佐!さっさとお願いします」
「そおっすよー。ガツンとお願いします!」
「いっちょ、かまして下さいっ。少佐!」
「少佐っ、今こそおとこを見せるときです!」
「いつもみたいに俺らに手本を見せてくださいっ」

 シャンティとギルフォードがまごつくのがじれったいのか、花婿側の参列者からこんな野次が飛んできた。

 そしてシャンティもこの野次に乗っかってしまった。

「ええっ嘘っ、あなた少佐なの?!」
「そうだが、今それを聞いてどうする?」
「いやまぁ……そうなんですけど」
「それより、アイツらがうるさいな。ちょっと黙らせる」
「は?」

 黙らせるって、どうやって??

 まさか祭壇から参列席に向かって怒声を浴びせるんじゃなかろうか。そんなことをしてしまえば、式は台無しになる。

 そうなれば、一体、自分は何のためにここに連れてこられたのであろうか。いやでも、そうなればキスを回避することはできる。なら、怒声に一票だ。

 なんてことを一瞬の間にシャンティが考えている間に、ギルフォードはシャンティの腰に手をまわしたまま首だけを参列席に向けた。

 その3秒後───……式場は静粛になった。

 そしてギルフォードは、視線だけで黙らせた眼力をそのままシャンティに向ける。

「諦めろ。いくぞ」

 視線はそれだけで人を殺せそうなのに、口調は恐ろしく優しい。それが余計に怖い。そんな訳で、シャンティは喉の奥から声がせりあがる。

「ひぃー………んっ」

 シャンディアナ・フォルト 19歳。
 悲鳴交じりの初めての接吻は、身体が震えた。主に恐怖からくる心因性の生理現象で。
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