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4-1.冬の嵐(前編)
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リューデリックは、この難題をどう処理するか苦慮している。
クラウディオは、そんなリューデリックをじっと観察している。
そんな中、ただただ時間が過ぎて行き、時計の針だけが無常に進んでいく。
けれど、クラウディオが沈黙を破った。
「モニカは、盗賊に両親を殺された際、亡骸と共に一晩明かしました。齢15の少女にとって、それは想像を絶する過酷な出来事でした。そして、一生忘れることが無い深い傷となっております」
「…… わかっている」
呻るリューデリックの目は、皆まで言うなと訴えている。
でもクラウディオは、言葉を重ねる。
「私の屋敷に来てから、モニカは寝る時も灯りを消すことはありません。暗闇が怖いのでしょう。そして、肉料理を一切口にすることはできません。ハーブやスパイスでどれだけ肉の臭みをとっても、決して食すことができないのです」
「…… わかったもういい」
「モニカと共に生活を初めて、既に一ヶ月が経過してます。その間に、モニカが夜中に、うなされて飛び起きるところを何度も耳にしています。……リューデリック殿下、モニカは両親を失っただけではございません。彼女は、ここに来てから、笑うことは無いのです。それは」
「もういいっ」
声を荒げたリューデリックに、クラウディオは息を呑んだ。
けれど、クラウディオの表情は王族に向けるものとは程遠いそれ。守るべき存在を傷付けるなら、容赦しないという獣に近い目つきだった。
「……すまなかった。お前の言っていることは正しい。この件は俺の全てを持って、しかるべき処置をする。約束しよう」
リューデリックは、しっかりとクラウディオの目を見て宣言した。
「殿下からお力添えをいただけるというお言葉を賜り、深く感謝を申し上げます。こんな心強いことはございません。ありがとうございます」
領主として綺麗に一礼したクラウディオに、リューデリックは肩を竦めた。
「……お前、変わったなぁ」
「そうでしょうか?」
きょとんとするクラウディオは、その自覚が全く無い。
そんな無自覚なクラウディオを前に、リューデリックは背もたれに身体を預けながら、口を開く。
「お前は、確かに己にも厳しく、法を破る人間にも厳しい。公明正大で、誰にでも分け隔てなく接する立派な領主だ」
「恐れ入ります。……改めて言われると、とても気持ち悪いですが」
「黙れ。だが、ここまで俺に噛みつくなんてこれまでなかったぞ。それほどまでに、あのモニカという少女が大事なのか?」
「はい」
即答したクラウディオに、リューデリックは額に手を当て天を仰いだ。
「俺はこの世に生を受けて、初めて陛下の『マジか』という呟きを耳にした」
「よほど親子の交流が少なかったのでしょうね。お察し致します」
「……それは認める。だが、俺よりずっと長く一緒にいる兄上とて初耳だと言っていた」
「さようですか。では陛下の身に、余程のことがあったのでしょうね」
白々しくすっとぼけるクラウディオに、リューデリックは「お前の結婚話だよっ」と、すかさず突っ込みを入れた。
クラウディオは、そんなリューデリックをじっと観察している。
そんな中、ただただ時間が過ぎて行き、時計の針だけが無常に進んでいく。
けれど、クラウディオが沈黙を破った。
「モニカは、盗賊に両親を殺された際、亡骸と共に一晩明かしました。齢15の少女にとって、それは想像を絶する過酷な出来事でした。そして、一生忘れることが無い深い傷となっております」
「…… わかっている」
呻るリューデリックの目は、皆まで言うなと訴えている。
でもクラウディオは、言葉を重ねる。
「私の屋敷に来てから、モニカは寝る時も灯りを消すことはありません。暗闇が怖いのでしょう。そして、肉料理を一切口にすることはできません。ハーブやスパイスでどれだけ肉の臭みをとっても、決して食すことができないのです」
「…… わかったもういい」
「モニカと共に生活を初めて、既に一ヶ月が経過してます。その間に、モニカが夜中に、うなされて飛び起きるところを何度も耳にしています。……リューデリック殿下、モニカは両親を失っただけではございません。彼女は、ここに来てから、笑うことは無いのです。それは」
「もういいっ」
声を荒げたリューデリックに、クラウディオは息を呑んだ。
けれど、クラウディオの表情は王族に向けるものとは程遠いそれ。守るべき存在を傷付けるなら、容赦しないという獣に近い目つきだった。
「……すまなかった。お前の言っていることは正しい。この件は俺の全てを持って、しかるべき処置をする。約束しよう」
リューデリックは、しっかりとクラウディオの目を見て宣言した。
「殿下からお力添えをいただけるというお言葉を賜り、深く感謝を申し上げます。こんな心強いことはございません。ありがとうございます」
領主として綺麗に一礼したクラウディオに、リューデリックは肩を竦めた。
「……お前、変わったなぁ」
「そうでしょうか?」
きょとんとするクラウディオは、その自覚が全く無い。
そんな無自覚なクラウディオを前に、リューデリックは背もたれに身体を預けながら、口を開く。
「お前は、確かに己にも厳しく、法を破る人間にも厳しい。公明正大で、誰にでも分け隔てなく接する立派な領主だ」
「恐れ入ります。……改めて言われると、とても気持ち悪いですが」
「黙れ。だが、ここまで俺に噛みつくなんてこれまでなかったぞ。それほどまでに、あのモニカという少女が大事なのか?」
「はい」
即答したクラウディオに、リューデリックは額に手を当て天を仰いだ。
「俺はこの世に生を受けて、初めて陛下の『マジか』という呟きを耳にした」
「よほど親子の交流が少なかったのでしょうね。お察し致します」
「……それは認める。だが、俺よりずっと長く一緒にいる兄上とて初耳だと言っていた」
「さようですか。では陛下の身に、余程のことがあったのでしょうね」
白々しくすっとぼけるクラウディオに、リューデリックは「お前の結婚話だよっ」と、すかさず突っ込みを入れた。
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