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二部 小さな反抗をさせていただきますが……何か?

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 カレンが馬車に乗り込めば、アルビスの愛人である少女も当然のように同じ馬車に乗り込んできた。

「ちょっと、悪いけど別の馬車で」
「申し訳ございません、聖皇后陛下......実は、聖皇帝陛下より必ず同じ馬車に乗るよう厳命を受けているんです」
「いや、でも......それは......」
「お願いでございます。絶対に邪魔になるようなことはいたしません。どうか、わたくしを居ないものだと思って、お側に置かしてくださいませ」
「えー......」

 切々と語る少女にカレンはとても嫌な顔をする。そうすれば少女は項垂れ肩を震わせてしまった。
 
 なんでだろう。嫌がらせを受けているのはこっちなのに、自分が少女を苛めているような気持ちになってしまう。とても理不尽だ。

 だが、もうかなり急がなければ、到着時刻に間に合わないのも事実。
 気持ちは現役女子高生のままでいるカレンは、遅刻という単語にとても敏感だった。

「本当に、本当に、邪魔しないでね」
「もちろんでございます」
「馬車の中では静かにしていてよ。話しかけたりしないでね」
「仰せのままに」
「ちょっとでも変なことをしたら、悪いけど一人で帰ってもらうからね」
「かしこまりました」

 次々と繰り出すカレンの条件に、少女は不機嫌になるどころか、にこにこと笑みを深くする。まるでカレンから話しかけられるのが嬉しくてたまらないといった感じで。

 対してカレンは、少女の反応に戸惑いを覚えている。はっきり言って気持ち悪い。

 でも、これもアルビスへ向けて好感度をあげるための演技だと考えれば、納得できないこともない。

 愛人業も大変なんだなぁと、同情する気持ちすら芽生えてしまいそうになる。

 ということは置いておいて、とにかくこの少女がおかしな行動を取ったら、いつでも馬車から放り出して良いという言質は取れた。

 だからカレンは諸々の感情を押さえ込んで、リュリュに出発するよう指示をだした。








 馬車は相も変わらず沢山の護衛を引き連れて、軽快に車輪を回して街道を進んでいく。今日も帝都は平和なのだろう。

 ただ外の様子はわからない。窓は指3本分しか開いていないから。

 さすがに聖皇后と、愛人が同じ馬車に乗っているのを帝都の民に見せるのは、よろしくないだろう。

 それが気になって仕事が手につかないという事態になってしまうのは非常に申し訳ない。

 ちなみにダリアスは馬鹿息子と違い気が回るようで、本日は無遠慮に窓を全開にする暴挙に出たりしない。とても有り難い。

 ただ、一つだけ問題があるとするなら......

「......暑い」

 カレンはとうとう我慢できずに、ぼやいてしまった。

 すかさずリュリュが窓に手をかける。それをカレンは慌てて止める。

 気遣いは嬉しいが、窓を開けた途端、居たたまれない気持ちになって変な汗をかくこと間違いない。

「……ねえリュリュさん、やっぱこれ脱いで良い?」
「……いけません。どうか辛抱してください」
「……でもさぁ、結構限界なんだけど」
「……お気持ちはわかりますが、このような場所で衣類を脱ぐのはちょっと……」

 向かいの席に座る少女に聞こえないように、こそこそと隣に座るリュリュに耳打ちしてみたけれど、結局望まぬ返答しか貰えず、カレンは溜め息を吐く。

 ちなみに少女は、始終無言で笑みを絶やすことはしない。さりげなく目を凝らしてみても、その瞳はちゃんと微笑んでいる。

 そしてカレンと目が合えば、にこっと笑みを深くして目礼する。とても礼儀正しいし、言い付けを守る良い子だ。
 シフォンをふんだんに使った黄色のドレスも見た目は軽くて涼しそうだが、絶対に暑いだろう。なのに、汗一つかいていない。とても我慢強い子だ。

 年の頃は14、15か。性別は違えど、冬馬と同じくらいだ。ふわふわとした桃色の髪に、薄紫色の瞳。血色の良い頬は、マシュマロのように柔らかそうだった。

 でもどれだけ美少女でも、アルビスの愛人であることには変わらない─── と、そこまで考えた途端、カレンはげっと小さく呻いてしまった。

 なぜなら『愛人=夜のお相手』という方程式に当てはめたら、アルビスは自分より遥かに幼い少女を抱いているということになる。とんだ変態だ
 
 ……レイプ魔のロリコンが治める帝国。ねぇ、この国本当に大丈夫!?

 カレンは本気でこの帝国の行く末を案じてしまった。

 といっても、ものの2秒で自分には関係ないことに気付く。
 ただクーデターとか起きる前に、早々に元の世界に帰ろうと現実的な結論に落ち着いた。

 と同時に、馬車も静かに停車した。目的地である孤児院に到着したようだった。

 カレンは御者の手によって馬車の扉が開く前に、もう一度少女に念を押す。

「何度も言ってクドいかもしれないけれど、本当に余計なことはしないでよね」
「はい。仰せのままに。わたくしは聖皇后陛下の傍にいたいですから」

 凄むカレンに、微笑む少女。

 やっぱり今回も弱い者いじめをしているようで、カレンは理不尽さに思わず親指の爪を噛んでしまった。 
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