上 下
103 / 142
二部 まさかの再会に驚きましたが……何か?

しおりを挟む
 夜会の翌日、カレンはルシフォーネから呼び出され、城内の一室にいた。

 目の前に並べられているのは、派手な柄の花瓶を始め、敷物なのかドレスの生地なのかわからない織物の山。大小さまざまな瓶にはコルク栓がしてあるから酒なのだろう。

 ピカピカに磨かれた銀食器と、未加工の宝石類も所狭しと並べられている。

「えっと……何?これ」

 カレンは戸惑いながらルシフォーネに尋ねた。

「これらは神殿の守り人からカレン様へと、本日納められた品々でございます……さぁ、カレン様どうぞお掛けください」

 長テーブルの前にある豪奢な椅子に腰かけたカレンに、ルシフォーネは神殿の紋章が刻まれているカードを手渡した。

 内容は季節の挨拶から始まり、次に目録。最後に聖皇后を褒め称える文言で締めくくられていた。

 聖皇后になってから、カレンはこういう類のカードを何度か受け取った。

 ほとんど目を通さずにルシフォーネに返却していたけれど、今回は神殿という言葉に引っ掛かりを覚えて目を通すことにした。

 黒目がちの瞳がカードに綴られている文字を追えば追うほど険しくなり、読み終えたと同時にぐしゃりと握り潰した。 

「なによ……お金が無いって、散々言ってたくせに」

 忌々し気に呟いたカレンを見ても、ルシフォーネは表情を変えない。

 リュリュは心配そうな顔をしているが、事情を詳しく訊くことはしない。 

「……ねぇ、ルシフォーネさん」
「なんでしょう、カレン様」

 穏やかに応じたルシフォーネに、カレンは紙くずと化したカードをテーブルに叩きつけると、勢いよく人差し指を前に付き出した。

「これって貰って嬉しいものなの!?」
「はい?」
「いや、だからっ……こういうのって貰ったら喜ばないといけないの!?」

 目の前に並べられたそれらは、高級品なのだろう。でもカレンの心はちっともときめかなかった。

 贈り物に難癖付けるのは、非常識なのはわかっている。でもどんなに頑張っても、嬉しいという気持ちが出てこない。あるのは憤りと、純粋な怒りだけ。

 なぜなら神殿からのカードには、要約すると「コレをあげるから、これからずっと神殿を支援してくれ」と書かれていたから。

 カードの差出人はウッヴァだった。あのメタボは、夜会の時に一方的に喋り散らかした結果、カレンとのパイプを作ることができたと思い込んでいるのだ。

(ふざけるなっ)

 これらは高値で売れる。そして売った金で、神殿の整備をするなり今後の活動資金にするなり好きにすればいい。

 そもそも、こんな高価なものを翌日にポンっと差し出せるのなら、神殿が困窮しているというのは嘘に違いない。 

 そんな気持ちで、カレンはルシフォーネを見つめる。

「そうですねぇ……」

 頬に手を当て一言紡いだ後、困惑しているようでルシフォーネはは何も言わない。普段の彼女なら、すぐ的確な答えを返してくれるのに。

 じっと見つめるとしばしば。ルシフォーネは、コホンと咳払いをしてから口を開いた。

「カレン様、これはあくまでわたくしの個人的な意見でございますが……」
「うん」
「わたくしにとっては全て不要なものでございます」
 
 言いにくそうではあったが、ルシフォーネはきちんとカレンと目を合わせて答えてくれた。

「だよね!」

 ルシフォーネと共感できても心は弾まない。不満は消えるどころか、風船のように膨らんでいく。

 ウッヴァはただ、自分が満足するものを贈りつけただけ。そこに相手への気遣いや配慮などない。自分の価値観だけを押しつけ、見返りを当然のように求めている。 

(冗談じゃない。誰が受け取るものか!)

 カレンは勢いよく立ち上がる。そしてルシフォーネに向かって口を開いた。

「これ賄賂だから全部要らないし、受け取らない今すぐ返品してください!」
「かしこまりました」

 慇懃に腰を折ったルシフォーネは、カレンの判断に全面的に同意してくれたようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】あなたに従う必要がないのに、命令なんて聞くわけないでしょう。当然でしょう?

チカフジ ユキ
恋愛
伯爵令嬢のアメルは、公爵令嬢である従姉のリディアに使用人のように扱われていた。 そんなアメルは、様々な理由から十五の頃に海を挟んだ大国アーバント帝国へ留学する。 約一年後、リディアから離れ友人にも恵まれ日々を暮らしていたそこに、従姉が留学してくると知る。 しかし、アメルは以前とは違いリディアに対して毅然と立ち向かう。 もう、リディアに従う必要がどこにもなかったから。 リディアは知らなかった。 自分の立場が自国でどうなっているのかを。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

逃がす気は更々ない

恋愛
前世、友人に勧められた小説の世界に転生した。それも、病に苦しむ皇太子を見捨て侯爵家を追放されたリナリア=ヘヴンズゲートに。 リナリアの末路を知っているが故に皇太子の病を癒せる花を手に入れても聖域に留まり、神官であり管理者でもあるユナンと過ごそうと思っていたのだが……。 ※なろうさんにも公開中。

身代わりの私は退場します

ピコっぴ
恋愛
本物のお嬢様が帰って来た   身代わりの、偽者の私は退場します ⋯⋯さようなら、婚約者殿

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

後悔はなんだった?

木嶋うめ香
恋愛
目が覚めたら私は、妙な懐かしさを感じる部屋にいた。 「お嬢様、目を覚まされたのですねっ!」 怠い体を起こそうとしたのに力が上手く入らない。 何とか顔を動かそうとした瞬間、大きな声が部屋に響いた。 お嬢様? 私がそう呼ばれていたのは、遥か昔の筈。 結婚前、スフィール侯爵令嬢と呼ばれていた頃だ。 私はスフィール侯爵の長女として生まれ、亡くなった兄の代わりに婿をとりスフィール侯爵夫人となった。 その筈なのにどうしてあなたは私をお嬢様と呼ぶの? 疑問に感じながら、声の主を見ればそれは記憶よりもだいぶ若い侍女だった。 主人公三歳から始まりますので、恋愛話になるまで少し時間があります。

処理中です...