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二部 恋のアドバイスなんてしたくありませんが……何か?(只今、修正中です)
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重たいカーテンを幾つもくぐりぬけて廊下に出れば、既にリュリュがいた。
そしてカレンが「お待たせ」と言う前に、ぐっと両肩を掴まれてしまった。
「カレン様、先ほどはいかがなさいましたか!?」
遠目からでも体調を崩したのがわかったのだろう。悲愴な顔でリュリュに顔を覗き込まれてしまった。
「あー……ちょっと、ね。うん、もう大丈夫」
対してカレンはリュリュから目を逸らして、曖昧な返答をする。
まさかセリオスがリュリュのことを好きだという独白を聞いたのがきっかけで、具合が悪くなったなど言えるわけがない。
それに、今頃になってダリアスがぴたりと背後に付いてしまったから。余計な会話は控えたい。ただ内心”もう遅いわっ”と怒鳴りつけたい。
でも、やっぱりなんで? と聞かれてしまうのは厄介だ。
だからカレンは痛めていない方の手で、リュリュのドレスの裾を引いて、もう帰ろうと促した。
行きも帰りも同じ道順であるが、ここにリュリュがいてくれるとやっぱり心強い。ちなみにダリアスは、かなり後ろを歩いている。
居て欲しい時に席を外していたくせにと、文句の一つも言いたくなる。だが、それよりカレンは並んで歩く侍女に伝えなければいけないことがあった。
「……リュリュさん、あのね」
「何でしょう、カレンさま」
「今日ね、付き合ってくれてありがとう」
少し背が高いリュリュを見上げてからぺこりと頭を下げれば、すぐにふふっと柔らかい笑みが降ってきた。
「リュリュはカレン様のお役に立てて嬉しいです」
誇らしそうにふわりと笑ったリュリュは、普段と違って化粧もしているし髪型も華やかに結っている。とても大人っぽくて、綺麗だった。
そりゃあ貴族のお坊ちゃま達も声をかけたくなるなと思ってしまうほど。可憐で綺麗で、思わず見とれてしまう。
でもリュリュは花の顔をしかめて口を開く。
「カレン様、今後、夜会の時でも宮殿内でも何かありましたら、リュリュに言ってください。セリオスであろうがヴァーリであろうが、リュリュはいつでも殺す覚悟にございます」
「あー……うん。ありがとう」
カレンは微妙な顔で頷いた。
物騒なことを口にするリュリュはどこまでも真剣だった。そして具体的に名前を出した2名のことを心底嫌いなんだと痛感する。
だから、今ここでセリオスがリュリュのことを好きだと言えば、きっと彼はついさっきの夜会の一件を報告しなくても闇に葬られてしまうだろう。
そしてどうあっても現世ではリュリュはセリオスに対して好意を持つことは無いような気がする。……いや、間違い無くないだろう。
いっそ早々に死んで、もふもふしている何かに生まれ変わった方が手っ取り早く好感度を上げることができるに違いない。
さっきセリオスから鬼気迫る表情でアドバイスを求められた時、そう言ってやれば良かったなとカレンは後悔した。
それに、セリオスが人間以外の別の生き物生まれ変わってくれたら、もう責任転嫁されて詰め寄られることも、苛つくこともない。
はっきり言って、これほど一挙両得な名案はないだろう。やっぱりリュリュにチクるべきだろうか。
カレンはそんなことを考えながら、左右の足を交互に動かす。
過去に一度だけ参加した夜会での散々だったアレコレを思い出しては、それを踏み潰すように。
「カレン様、お戻りになりましたら、すぐにお湯の準備をしますね。お食事はいかがなさいますか?」
「んー。お風呂はすぐに入りたいけど、ご飯はいいや」
「……さようですか。では、お茶を淹れましょう」
「ん、ありがとう」
リュリュと取り留めも無い会話をしながら、カレンは退席直前のアルビスの表情までも思い出してしまう。
……狐につままれたような顔をしていた。
余程驚いたのだろう。たかだか「おやすみ」と言っただけなのに。
でもカレンは、アルビスがなんでそんな顔をしたのかわからなかった。
それくらいカレンはアルビスを見ていなかった。どんな時に苛立つのか、喜ぶのか。何をされたら嫌なのか、嬉しいのか。まったく見当もつかなかった。
今アルビスに対して関心があるとするなら、いつ世継ぎが生れるのか、だけだ。
生まれてくれれば、カレンが胸に抱えるしこりが一つ減るから、早々に産んで欲しいと切に願っている。
「───……恐れ入りますが、聖皇后陛下。わたくしはこれで失礼します」
ぼんやりと考えていたら背後からダリアスに声を掛けられ、カレンは自室が目の前だということに気付いた。
次いでカレンとリュリュは同時に振り返って、ダリアスにおやすみと声を掛ける。
ダリアスは微かに笑って、カレンに対しては深々と礼を取った。けれど、つかつかとリュリュに歩み寄ると慈愛のこもった口調でこう言った。
「リュリュ、悪い虫は私が追っ払っておくから安心して寝なさい」
「……は?お義父様、何を藪から棒に……」
「いや、なんでもない。おやすみリュリュ。今日も良い夢を」
「は、はぁ。おやすみなさいませ、お義父様」
事情を知らないリュリュはぽかんとしている。
でもダリアスは詳しくは語らない。ただカレンに意味ありげな視線を向け、綺麗な礼を取り背を向けた。
去っていくダリアスの背を見ながらカレンは、この人は知らないフリをしているけれど、何でも知っているのだと確信した。
そして知っているなら、何であの時助けてくれなかったのだろうと、ちょっと……いや、かなりイラッとした。
そしてカレンが「お待たせ」と言う前に、ぐっと両肩を掴まれてしまった。
「カレン様、先ほどはいかがなさいましたか!?」
遠目からでも体調を崩したのがわかったのだろう。悲愴な顔でリュリュに顔を覗き込まれてしまった。
「あー……ちょっと、ね。うん、もう大丈夫」
対してカレンはリュリュから目を逸らして、曖昧な返答をする。
まさかセリオスがリュリュのことを好きだという独白を聞いたのがきっかけで、具合が悪くなったなど言えるわけがない。
それに、今頃になってダリアスがぴたりと背後に付いてしまったから。余計な会話は控えたい。ただ内心”もう遅いわっ”と怒鳴りつけたい。
でも、やっぱりなんで? と聞かれてしまうのは厄介だ。
だからカレンは痛めていない方の手で、リュリュのドレスの裾を引いて、もう帰ろうと促した。
行きも帰りも同じ道順であるが、ここにリュリュがいてくれるとやっぱり心強い。ちなみにダリアスは、かなり後ろを歩いている。
居て欲しい時に席を外していたくせにと、文句の一つも言いたくなる。だが、それよりカレンは並んで歩く侍女に伝えなければいけないことがあった。
「……リュリュさん、あのね」
「何でしょう、カレンさま」
「今日ね、付き合ってくれてありがとう」
少し背が高いリュリュを見上げてからぺこりと頭を下げれば、すぐにふふっと柔らかい笑みが降ってきた。
「リュリュはカレン様のお役に立てて嬉しいです」
誇らしそうにふわりと笑ったリュリュは、普段と違って化粧もしているし髪型も華やかに結っている。とても大人っぽくて、綺麗だった。
そりゃあ貴族のお坊ちゃま達も声をかけたくなるなと思ってしまうほど。可憐で綺麗で、思わず見とれてしまう。
でもリュリュは花の顔をしかめて口を開く。
「カレン様、今後、夜会の時でも宮殿内でも何かありましたら、リュリュに言ってください。セリオスであろうがヴァーリであろうが、リュリュはいつでも殺す覚悟にございます」
「あー……うん。ありがとう」
カレンは微妙な顔で頷いた。
物騒なことを口にするリュリュはどこまでも真剣だった。そして具体的に名前を出した2名のことを心底嫌いなんだと痛感する。
だから、今ここでセリオスがリュリュのことを好きだと言えば、きっと彼はついさっきの夜会の一件を報告しなくても闇に葬られてしまうだろう。
そしてどうあっても現世ではリュリュはセリオスに対して好意を持つことは無いような気がする。……いや、間違い無くないだろう。
いっそ早々に死んで、もふもふしている何かに生まれ変わった方が手っ取り早く好感度を上げることができるに違いない。
さっきセリオスから鬼気迫る表情でアドバイスを求められた時、そう言ってやれば良かったなとカレンは後悔した。
それに、セリオスが人間以外の別の生き物生まれ変わってくれたら、もう責任転嫁されて詰め寄られることも、苛つくこともない。
はっきり言って、これほど一挙両得な名案はないだろう。やっぱりリュリュにチクるべきだろうか。
カレンはそんなことを考えながら、左右の足を交互に動かす。
過去に一度だけ参加した夜会での散々だったアレコレを思い出しては、それを踏み潰すように。
「カレン様、お戻りになりましたら、すぐにお湯の準備をしますね。お食事はいかがなさいますか?」
「んー。お風呂はすぐに入りたいけど、ご飯はいいや」
「……さようですか。では、お茶を淹れましょう」
「ん、ありがとう」
リュリュと取り留めも無い会話をしながら、カレンは退席直前のアルビスの表情までも思い出してしまう。
……狐につままれたような顔をしていた。
余程驚いたのだろう。たかだか「おやすみ」と言っただけなのに。
でもカレンは、アルビスがなんでそんな顔をしたのかわからなかった。
それくらいカレンはアルビスを見ていなかった。どんな時に苛立つのか、喜ぶのか。何をされたら嫌なのか、嬉しいのか。まったく見当もつかなかった。
今アルビスに対して関心があるとするなら、いつ世継ぎが生れるのか、だけだ。
生まれてくれれば、カレンが胸に抱えるしこりが一つ減るから、早々に産んで欲しいと切に願っている。
「───……恐れ入りますが、聖皇后陛下。わたくしはこれで失礼します」
ぼんやりと考えていたら背後からダリアスに声を掛けられ、カレンは自室が目の前だということに気付いた。
次いでカレンとリュリュは同時に振り返って、ダリアスにおやすみと声を掛ける。
ダリアスは微かに笑って、カレンに対しては深々と礼を取った。けれど、つかつかとリュリュに歩み寄ると慈愛のこもった口調でこう言った。
「リュリュ、悪い虫は私が追っ払っておくから安心して寝なさい」
「……は?お義父様、何を藪から棒に……」
「いや、なんでもない。おやすみリュリュ。今日も良い夢を」
「は、はぁ。おやすみなさいませ、お義父様」
事情を知らないリュリュはぽかんとしている。
でもダリアスは詳しくは語らない。ただカレンに意味ありげな視線を向け、綺麗な礼を取り背を向けた。
去っていくダリアスの背を見ながらカレンは、この人は知らないフリをしているけれど、何でも知っているのだと確信した。
そして知っているなら、何であの時助けてくれなかったのだろうと、ちょっと……いや、かなりイラッとした。
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