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°˖✧閑話✧˖°(そのうちこそっと見直し修正します)

元の世界での正しい謝罪の方法を教えて差し上げます⑥

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 義理の妹からも、自分が仕える主からも、背を預けることができる相方からにも見捨てられたヴァーリには、辞世の句を読むことしか残されていない。

 と、思ったのだけれど、ここで状況が変わった。

「駄目だよっ、リュリュさん」

 まさかのまさかで、ここでカレンがリュリュを引き留めたのだ。有無を言わさないような厳しい口調で。

 ああ、なんだ。ちょっとばかし、おちょくられただけだったのかと、ヴァーリはほっと胸を撫でおろした。

 他の人間からこんなことをされたら間違いなくマジ切れするが、なにせ相手は聖皇妃。過去になんのてらいもなく、自分の急所を蹴り上げる狂犬。この程度で終わったのなら、むしろラッキー。

 そんなことまで思った。
 ……それが余計だったのかどうかはわからないが、ヴァーリが望む展開には、ならなかった。

「そんな汚れ仕事、リュリュさんがやるなんて駄目だよ」

 カレンの真剣な声に、自分の運命が何ら変わっていないことにヴァーリは気付く。そして「俺の首跳ねるのが何故に汚れ仕事?!」と不満を抱きつつ、今度こそ詰んだなと遠い目をした。

 ちなみに、今まさに人間としての名誉を回復するために命を散らそうとしている相方を、シダナは見ていない。「インクの補充をしなければ」と言いながら、いそいそと机を探る彼の血の色は何色なのだと聞いてみたいくらいだ。

 ただ、そんな薄情な騎士にも天罰が下った。

「あの人がやれば良いじゃん」

 納得できないリュリュを必死に説得していたカレンが、びゅんっと音がするほどの勢いで指さしたのは、政務に勤しむ騎士だった。

「───……え゛」

 まさかのご指名を受けたシダナは、鶏が絶命するような声を上げて固まった。

 鉄壁の善人スマイルは、見事に崩壊している。

「……カレンさま」
「なあに?」
「えっと……で、ございますが……」
「んー?どーうしたのぉ?」
「……」

 これをとばっちりと言わずに何と言おう。
 かつてお茶を頭にぶっかけられた時とは真逆の表情を浮かべるカレンに対して、シダナは至極冷静にそんなことを思った。

 ただ、シダナもヴァーリと同様に、口を閉じることはない。

「今一度、ご確認させていただきたいのですが……」
「うん」
「わたくしに、アレの首を切り落とせと?」
「うん!」

 なんだかついさっき、似たような会話を聞いたなとシダナは思った。その時は他人事だったので、右から左で聞き流していたけれど。

 でも、いざ自分がこの立場になってみればわかる。反論できる余地が無いということを。

 シダナは、まるでどこかの馬鹿騎士と同じように自分の主に向かって、縋るような眼差しを送る。……返ってきたのは、全てを拒絶する書類を捌く音だけだった。
 
 そしてその音は、誰がヴァーリの介錯を引き受けるのか決定する音でもあった。

「あああああっ。わかりましたっ。わかりましたよっ」

 このやりとりを無言で聞いていたヴァーリは、もう、頭で物事を考えることを放棄した。

 退路は断たれた。そして自分が進むべき道は一つしかないと決めつける。その進む道が、もっとも自分が回避したいものだというのに。

 そして勢いよく、腰に差してある剣を抜く。シダナも机の横に立て掛けてあった剣を取り、嫌々ながらもヴァーリの横に立った。露骨に溜息を付きながら。

 ただ、ヴァーリとシダナが手にしているのは、長剣であった。文字通り長い。それをどうやって逆向きにして腹に刺すのか……ヴァーリはしばし悩む。

 その姿は、絵に描いたようなみっともない姿であった。
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