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°˖✧閑話✧˖°(そのうちこそっと見直し修正します)

元の世界での正しい謝罪の方法を教えて差し上げます⑤

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 カレンの提案に執務室は更に温度が下がった。但し、これまでとはちょっと違う意味で。

 そして、ここにいる者は口を貝のように閉ざしている。

 カレンは言いたいことを言い切ったので、あとはヴァーリの出方を見るだけで。

 そして他の人間は、カレンが説明した切腹なるものを、各々の感覚で理解に努めていて。

 だから、衣擦れの音すらやけに大きく響くこの執務室は、実はわちゃわちゃと騒がしかったりする。

 そんな中、最初に口を開いたのはヴァーリだった。
 カタカタと小刻みに震えながら。でも尋常じゃない汗をかいて。


「……カレンさま」
「なあに?」
「えっと……ですね……」
「ん?どうしたの?」
「……」

 かつてこれ程までに、この少女からにこやかに対応してもらえたことがあっただろうか。

 ヴァーリは必死に記憶をさぐってみるが、ついぞ見付けることはできなかった。

 ただ今、カレンの機嫌が直った訳でも、自分の人間としての名誉が回復した訳でもないことは、頭が良くないヴァーリにだってわかる。

 なぜならカレンの目は、笑っていないから。

 それでもヴァーリは再び口を開く。命知らずと言われても良い。だって言わなくても、死がまるで恋人のように寄り添っているのだから。

「恐れながら……今一度確認させていただきたいのですが……」
「うん」
「自分で腹を掻っ捌くことが、名誉を回復させることになるのでしょうか?」
「うん!」
「……」

 いっそ無邪気といえるカレンの態度に、この少女が本気の本気であることをヴァーリは知った。

 また、部屋の温度が下がった。
 室温計がそこにあれば、測定不能でパリンと割れてしまう程に。

 そして、カレン以外の全員は、異世界の文化の違いを見せつけられ、言葉を失ってしまった。

 ハラキリ?え?マジで?イッツ・クレイジー!

 なんてことを思っているかどうかは定かではないが、兎にも角にも、この華奢で年齢より幼く見える少女の口から、そんなことが紡がれた事実に驚愕を隠すことができない。

 が、カレンは更に、切腹のお作法の補足を初めてしまう。

「あ、でもね。切腹って一人でやるもんじゃないんだ。介錯人っていう人がいてね、その人がお腹を切ったと同時に、首を切り落としてくれるんだよ。だから、安心してね」
 
 何を、どう、安心すれば良いのだろうか。

 これもまた、メルギオス帝国で生まれた者は同時に思った。
 あと、介錯人は誰がやる?そんな疑問が浮かぶ。

 ちなみにこの提案者からの指名は無い。ただ、選ぶならこの中からだ。これもまた同時に思った。

 そして一人が、立候補をした。

「僭越ながらわたくしが、介錯人をやらせていただきとうございます」

 凛とした声が部屋に響く。
 予想通りといえば予想通り。そう宣言して一歩前に出たのは、カレンの侍女、リュリュであった。

 手には既に剣を持ってはいるが、今日はその刃がいつもより鋭く光って見えるのは気のせいだろうか。

 そして要はコレの首を切り落とせば、良いんですよね?と真顔でカレンに確認するリュリュは、義理の兄に刃を向けることへの葛藤は微塵もない。

 ただ自ら名乗り出た以上、完璧に使命を果たさなければならないという無駄に強い責任感だけが伝わってくる。

「───……お、おい。マジかよぉ」

 ヴァーリは、羽虫がたかる音よりもっともっと小さい声で、そんなことを呟いた。

 ちなみにヴァーリは、まだやるとは一言も言っていない。

 なのに着々と準備が進んでいく。
 
 今、ヴァーリは結婚に踏み切れないヘタレ男が外堀を埋められていく心境を身を持って知った。
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