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一部 別居中。戻る気なんて0ですが......何か?(修正終わってます)
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立ち上がった佳蓮は、そのまま扉へと向かう。事の成り行きを見守っていたリュリュは、佳蓮の足が止まらないように素早く扉を開けた。
けれどあと数歩で廊下に出れるといったところで、シダナが素早い動きで佳蓮の前に立ち塞がった。
「カレンさま、どうかお待ちください」
「どいてっ……え……っ!?」
佳蓮は目を吊り上げたけれど、すぐに小さく息を呑んだ。リュリュが佳蓮の行く手を阻むシダナに剣を向けたのだ。
「退いてください。シダナさま」
怒気を孕んだリュリュの声が、部屋に響く。
しかし喉元ギリギリに剣を突きつけられているシダナは、動じることなく口を開いた。
「カレンさま。あなたにこの世界を受け入れて欲しい。そしてあなたの口から受け入れると言ってほしかったのは本当です」
「ふぅーん、そうなんだ。すごく図々しいお願いだね。でも私は無理。その理由もちゃんと言ったよね。だからもういいでしょ?どいて……ああ……そっか。アイツの差し金でシダナさんはここへ来たんだっけ」
佳蓮はそう言いながら、どうしてその可能性に気付かなかったのだろうと舌打した。
「シダナさん、アイツに一生あんたの顔なんか見たくないって伝えて。それと、あなたもこんなところ来たくなんかなかったよね。なんか、お疲れ様」
佳蓮が憐れむ視線を向けた途端、シダナは弾かれたように首を横に振った。
「い、いいえっ、それは違います!ここへ来たのも、手紙を送り続けたのも私の独断です。陛下はあなたを宮殿に呼び戻すつもりはございませんし、ご自身もここへ足を向けるつもりはないです。あなたに会う資格はないことは自覚しております」
「へぇ、そう。でも……どうでもいいや。とにかく消えて」
真相がわかったところで、この会話が無意味なのは変わらない。佳蓮はシダナを横切って廊下へ出ようとする。
しかしシダナは、性懲りもなく呼び止める。
「カレンさま、お願いします。どうか今一度だけ、私にあなたが元に戻りたい理由を教えて下さい!」
「嫌、話したくない」
ぷいっと佳蓮が横を向けば、シダナは突然その場に膝を付いた。喉元ギリギリに刃を向けられているというのに。
それは斬れるもんなら斬ってみろという強気な態度ではなく、斬られても構わないと覚悟を持った動きだった。
驚く佳蓮の足元に、シダナは腰に差してあった剣を置く。
「……えっと、何してるの?」
こんな物騒なものを差し出されても、佳蓮は何も嬉しくない。
なのにシダナは剣を置いたまま、真剣な表情で佳蓮を見つめている。
なにやら大切な儀式をしているようで、リュリュはシダナに帰れと急かすことをはせず、ぎゅっと唇を真一文字に引き結んでいる。佳蓮も釣られて、思わず表情を引き締めてしまう。
「わたくしの命を代価として、もう一度カレンさまが元の世界に戻りたい理由を教えてください。わたくしが無知なゆえ理解できない言葉があるのは認めます。わたくしごときに話す価値がないということも承知しております。お手を煩わせることを心苦しく思ってもいます。ですが──それでもわたくしは知りたいのです」
そう締め括ったシダナは、うなじが見えるほど頭を下げた。
佳蓮の知っているシダナは、いつも”こういう表情をしていれば丸く収まる”という薄い笑みをを浮かべる喰えない男だった。
でも、今のシダナは違う。
ぶっかけられたお茶を拭うこともせず、年下の小娘相手に跪いている。その姿は、はっきり言ってみっともない。
でもシダナは、佳蓮のことを理解しようとしている。やっと相手の目線に立とうとしている。
「……一度しか話さないよ」
「かまいません」
「言葉の意味がわからないからって話を止めないでよ」
「もちろんです」
間髪入れずに頷くシダナを見て、佳蓮は渋面を作る。条件を出せば出すほど、自分の分が悪くなっていく。
もう”やっぱ無し”は通用しないところまで来てしまった。
「……ねえ、私が話したことあの人に伝えるの?」
「……」
佳蓮の問いかけに、シダナは賢くも無言でいる。それは話すという意思の表れでもあった。
「私、絶対にあの人には会いたくないし、あの人がいるところなんか行かない。それと……万が一、あの人がここに来るっていったら止めてくれる?」
「全力で阻止させていただきます」
絶対に、と言わなかったのは、シダナなりの誠意なのだろう。善処しますと言っていたら、迷わず彼を蹴り倒していた。
(本当は……私だって誰かに聞いてほしかった)
何度も機会はあったけれど、うまく伝えられるか自信がなかったし、一生懸命話しても「その程度のことか」と、切り捨てられることがとても嫌だったし怖かった。
でもここまでお膳立てされたら話すべきだ。佳蓮はシダナの願いを叶えることにした。
「……わかった。一度だけ話してあげる」
「ありがとうございます」
シダナは罪人が赦しを与えられたかのように、顔を上げて目を細める。
居心地悪さを感じた佳蓮は、シダナから逃げるようにさっさと一人掛けのソファに座る。
それからリュリュに向けて、こう言った。
「リュリュさん、お茶のお代わりを入れてもらえたら嬉しいです。あと……えっと……シダナさんに何か拭くものを」
けれどあと数歩で廊下に出れるといったところで、シダナが素早い動きで佳蓮の前に立ち塞がった。
「カレンさま、どうかお待ちください」
「どいてっ……え……っ!?」
佳蓮は目を吊り上げたけれど、すぐに小さく息を呑んだ。リュリュが佳蓮の行く手を阻むシダナに剣を向けたのだ。
「退いてください。シダナさま」
怒気を孕んだリュリュの声が、部屋に響く。
しかし喉元ギリギリに剣を突きつけられているシダナは、動じることなく口を開いた。
「カレンさま。あなたにこの世界を受け入れて欲しい。そしてあなたの口から受け入れると言ってほしかったのは本当です」
「ふぅーん、そうなんだ。すごく図々しいお願いだね。でも私は無理。その理由もちゃんと言ったよね。だからもういいでしょ?どいて……ああ……そっか。アイツの差し金でシダナさんはここへ来たんだっけ」
佳蓮はそう言いながら、どうしてその可能性に気付かなかったのだろうと舌打した。
「シダナさん、アイツに一生あんたの顔なんか見たくないって伝えて。それと、あなたもこんなところ来たくなんかなかったよね。なんか、お疲れ様」
佳蓮が憐れむ視線を向けた途端、シダナは弾かれたように首を横に振った。
「い、いいえっ、それは違います!ここへ来たのも、手紙を送り続けたのも私の独断です。陛下はあなたを宮殿に呼び戻すつもりはございませんし、ご自身もここへ足を向けるつもりはないです。あなたに会う資格はないことは自覚しております」
「へぇ、そう。でも……どうでもいいや。とにかく消えて」
真相がわかったところで、この会話が無意味なのは変わらない。佳蓮はシダナを横切って廊下へ出ようとする。
しかしシダナは、性懲りもなく呼び止める。
「カレンさま、お願いします。どうか今一度だけ、私にあなたが元に戻りたい理由を教えて下さい!」
「嫌、話したくない」
ぷいっと佳蓮が横を向けば、シダナは突然その場に膝を付いた。喉元ギリギリに刃を向けられているというのに。
それは斬れるもんなら斬ってみろという強気な態度ではなく、斬られても構わないと覚悟を持った動きだった。
驚く佳蓮の足元に、シダナは腰に差してあった剣を置く。
「……えっと、何してるの?」
こんな物騒なものを差し出されても、佳蓮は何も嬉しくない。
なのにシダナは剣を置いたまま、真剣な表情で佳蓮を見つめている。
なにやら大切な儀式をしているようで、リュリュはシダナに帰れと急かすことをはせず、ぎゅっと唇を真一文字に引き結んでいる。佳蓮も釣られて、思わず表情を引き締めてしまう。
「わたくしの命を代価として、もう一度カレンさまが元の世界に戻りたい理由を教えてください。わたくしが無知なゆえ理解できない言葉があるのは認めます。わたくしごときに話す価値がないということも承知しております。お手を煩わせることを心苦しく思ってもいます。ですが──それでもわたくしは知りたいのです」
そう締め括ったシダナは、うなじが見えるほど頭を下げた。
佳蓮の知っているシダナは、いつも”こういう表情をしていれば丸く収まる”という薄い笑みをを浮かべる喰えない男だった。
でも、今のシダナは違う。
ぶっかけられたお茶を拭うこともせず、年下の小娘相手に跪いている。その姿は、はっきり言ってみっともない。
でもシダナは、佳蓮のことを理解しようとしている。やっと相手の目線に立とうとしている。
「……一度しか話さないよ」
「かまいません」
「言葉の意味がわからないからって話を止めないでよ」
「もちろんです」
間髪入れずに頷くシダナを見て、佳蓮は渋面を作る。条件を出せば出すほど、自分の分が悪くなっていく。
もう”やっぱ無し”は通用しないところまで来てしまった。
「……ねえ、私が話したことあの人に伝えるの?」
「……」
佳蓮の問いかけに、シダナは賢くも無言でいる。それは話すという意思の表れでもあった。
「私、絶対にあの人には会いたくないし、あの人がいるところなんか行かない。それと……万が一、あの人がここに来るっていったら止めてくれる?」
「全力で阻止させていただきます」
絶対に、と言わなかったのは、シダナなりの誠意なのだろう。善処しますと言っていたら、迷わず彼を蹴り倒していた。
(本当は……私だって誰かに聞いてほしかった)
何度も機会はあったけれど、うまく伝えられるか自信がなかったし、一生懸命話しても「その程度のことか」と、切り捨てられることがとても嫌だったし怖かった。
でもここまでお膳立てされたら話すべきだ。佳蓮はシダナの願いを叶えることにした。
「……わかった。一度だけ話してあげる」
「ありがとうございます」
シダナは罪人が赦しを与えられたかのように、顔を上げて目を細める。
居心地悪さを感じた佳蓮は、シダナから逃げるようにさっさと一人掛けのソファに座る。
それからリュリュに向けて、こう言った。
「リュリュさん、お茶のお代わりを入れてもらえたら嬉しいです。あと……えっと……シダナさんに何か拭くものを」
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