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一部 夜会なんて出たくありませんが......何か?
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ヴァーリに渾身の一撃を与えた佳蓮は、スカートの裾を掴むと廊下を闇雲に走り、宮殿の庭へと飛び出した。
途中で片方の靴が脱げてしまったけれど、それを拾うことすらせずに走り続ける。
(もう嫌だっ。全部、嫌だっ。帰る、帰るっ、絶対に何がなんでも帰ってやる!!)
頭の中は、元の世界に戻ることで埋め尽くされていた。
もちろん戻る方法なんてわからない。でも今なら、何の確証もないけれど戻れるような気がしてならなかった。
丁寧に整えられた庭の芝生は夜露を孕んでいる。秋も深まる夜は、底冷えする寒さだ。けれど佳蓮の足は止まらない。
光沢のある絹の靴下は夜露と草の汁を含んで冷たくて不快だし、片足しか履いていない靴のせいで身体が左右にぶれてしまう。それでもただひたすらに神殿を目指す。
衛兵に呼び止められたような気もしたが、佳蓮にとったらそれは流れる景色の一つでしかない。しかし、
「……あっ」
小石の一つにつまづいて、佳蓮は転倒してしまった。
冷たい土の感触で、荒れ狂っていた感情が冷静さを取り戻す。心の中には遣る瀬無さだけが残り、佳蓮の瞳から涙が溢れ出す。
「うっ……ううっ」
こんなみっともない姿、誰にも見られたくない。そう思っても歯の隙間から声が洩れ、手の甲で拭いても拭いても涙が止まらなかった。
(……もう、疲れた)
激しい疲労感から、佳蓮はもう立ち上がることができない。
うずくまった状態で、佳蓮は小さな子供のように声を上げて泣き続ける。そんな中、突然頭上から馴染みのある声が降ってきた。
「お迎えにあがりました」
その声に怒りの感情はなかった。でも佳蓮の全身に鳥肌が立つ。
顔を上げ、おずおずとその人を見る。リュリュがストールを手にして立っていた。
「……帰りたくない」
佳蓮はそう呟いて身を丸める。
梃子でも動かないという姿勢を見せたのに、リュリュは立ち去ってはくれない。それどころか膝を付くと、手にしていたストールをそっと佳蓮の肩にかけた。
「いけません。戻るのです」
その言葉に佳蓮は、顔を上げてリュリュを睨みつける。
「もう私のことなんてほっといて……っ?!」
視界に飛び込んできたリュリュは、これ以上ないほど申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「カレンさま、兄が大変失礼をいたしました。ヴァーリに代わりお詫び申し上げます」
「……っ」
深く頭を下げたリュリュに、佳蓮は首を横に振った。
謝ったところで何だというのだ。あの忌々しい騎士と同じ血が流れていると思うだけで、嫌悪感が先に立つ。
そんな佳蓮の思考を読んだのだろうか。リュリュはあからさまにムッとした表情を浮かべて口を開く。
「カレンさま、どうか聞いてください。わたくしの名誉の為にお伝えしますが、兄のヴァーリとは血のつながりはございません。孤児だったわたくしを、ヴァーリの父であるウルセル卿が引き取ってくださったんです。それだけです。だから血のつながりは一切ございません。戸籍上の兄というだけ。それとウルセル卿には多大な恩はございますが、ヴァーリとは、ただの他人です。赤の他人です」
ピンと背筋を伸ばして一気に言い切ったリュリュは、息切れ一つしていない。肺活量がすごい。
そんなリュリュの凛とした姿があまりに綺麗で、佳蓮はこんな状況なのに思わず見惚れてしまった。
途中で片方の靴が脱げてしまったけれど、それを拾うことすらせずに走り続ける。
(もう嫌だっ。全部、嫌だっ。帰る、帰るっ、絶対に何がなんでも帰ってやる!!)
頭の中は、元の世界に戻ることで埋め尽くされていた。
もちろん戻る方法なんてわからない。でも今なら、何の確証もないけれど戻れるような気がしてならなかった。
丁寧に整えられた庭の芝生は夜露を孕んでいる。秋も深まる夜は、底冷えする寒さだ。けれど佳蓮の足は止まらない。
光沢のある絹の靴下は夜露と草の汁を含んで冷たくて不快だし、片足しか履いていない靴のせいで身体が左右にぶれてしまう。それでもただひたすらに神殿を目指す。
衛兵に呼び止められたような気もしたが、佳蓮にとったらそれは流れる景色の一つでしかない。しかし、
「……あっ」
小石の一つにつまづいて、佳蓮は転倒してしまった。
冷たい土の感触で、荒れ狂っていた感情が冷静さを取り戻す。心の中には遣る瀬無さだけが残り、佳蓮の瞳から涙が溢れ出す。
「うっ……ううっ」
こんなみっともない姿、誰にも見られたくない。そう思っても歯の隙間から声が洩れ、手の甲で拭いても拭いても涙が止まらなかった。
(……もう、疲れた)
激しい疲労感から、佳蓮はもう立ち上がることができない。
うずくまった状態で、佳蓮は小さな子供のように声を上げて泣き続ける。そんな中、突然頭上から馴染みのある声が降ってきた。
「お迎えにあがりました」
その声に怒りの感情はなかった。でも佳蓮の全身に鳥肌が立つ。
顔を上げ、おずおずとその人を見る。リュリュがストールを手にして立っていた。
「……帰りたくない」
佳蓮はそう呟いて身を丸める。
梃子でも動かないという姿勢を見せたのに、リュリュは立ち去ってはくれない。それどころか膝を付くと、手にしていたストールをそっと佳蓮の肩にかけた。
「いけません。戻るのです」
その言葉に佳蓮は、顔を上げてリュリュを睨みつける。
「もう私のことなんてほっといて……っ?!」
視界に飛び込んできたリュリュは、これ以上ないほど申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「カレンさま、兄が大変失礼をいたしました。ヴァーリに代わりお詫び申し上げます」
「……っ」
深く頭を下げたリュリュに、佳蓮は首を横に振った。
謝ったところで何だというのだ。あの忌々しい騎士と同じ血が流れていると思うだけで、嫌悪感が先に立つ。
そんな佳蓮の思考を読んだのだろうか。リュリュはあからさまにムッとした表情を浮かべて口を開く。
「カレンさま、どうか聞いてください。わたくしの名誉の為にお伝えしますが、兄のヴァーリとは血のつながりはございません。孤児だったわたくしを、ヴァーリの父であるウルセル卿が引き取ってくださったんです。それだけです。だから血のつながりは一切ございません。戸籍上の兄というだけ。それとウルセル卿には多大な恩はございますが、ヴァーリとは、ただの他人です。赤の他人です」
ピンと背筋を伸ばして一気に言い切ったリュリュは、息切れ一つしていない。肺活量がすごい。
そんなリュリュの凛とした姿があまりに綺麗で、佳蓮はこんな状況なのに思わず見惚れてしまった。
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