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くだんの彼女とバッタリ遭遇※またの名を【夜会事件】
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ユリシアは覚束ない足取りでグレーゲルの元に向かう。
そして震える手で彼の指先に触れようとした瞬間、逆に強く掴まれてしまいーーあっと思った時には、もうぎゅっと抱きしめられていた。
「……もう大丈夫だ」
耳に注ぎ込むように優しく言葉を落とされ、ユリシアはグレーゲルには双子の兄弟がいるんじゃないかと本気で思ってしまう。
「で、コイツは誰だ?」
カタカタ震えるユリシアを宥めるように優しく背を撫でながらグレーゲルは問うた。アルダードではなく、ラーシュに。
「ユリシア様に無礼を働いた不届き者です」
ラーシュはあえてグレーゲルに、これが例のユリシアの兄だということは伝えなかった。鋭い主の眼光を見て、言う必要などないと判断したからだ。
「へぇ。じゃあ、適当に刻んでおけ。俺は婚約者とダンスを踊らないといけないからな」
「御意に」
蝶の群れに一匹の羽虫が紛れていたところで、人は騒ぎ立てることはしない。
だって虫だから。相手にする必要はないのだ。
それをはっきり態度で示したグレーゲルは、強引にユリシアをダンスホールへと誘う。
「グレーゲル、待ってください!あの人はーー」
「知ってる。何も言うな」
「……っ」
びっくりするほど優しいグレーゲルの口調に、ユリシアは不覚にも涙ぐんでしまう。
(くっそ、むかつく)
泣かせようとしているグレーゲルに、わざと憎まれ口を叩いてみる。
だってそうしないと駄目なのだ。何がと言われたら良くわからないけれど、駄目なのだ。彼の言葉に身を委ねるのは。
「ったく、泣くな。おい見てみろ、今の俺は、婚約者を泣かせる非道な男になっているじゃないか」
「……血濡れの大公様なんですから、今更じゃないですか」
「おっ、言ってくれるな」
機嫌を損ねたかと思いきや、グレーゲルはなぜか嬉しそうに笑う。
そしてダンスホールに到着すると、あの日と同じようにユリシアをダンスに誘うべく、グレーゲルは上着の襟を正してから手を差し出した。
「それでは1曲願えますか」
「……はい」
こくっと頷いてグレーゲルの手のひらに自分の手を乗せたけれど、震えはまだ治まっていない。こんな状態で踊れるのだろうかとユリシアは不安になる。
まぁ、派手に転んだなら転んだで、自分の評価が下がるだけ。それは当初の予定通りになるだけ。
そう、……なるだけなんだけど。
「安心しろ。今日はこの前みたいにはしない」
向き合ってダンスの型を組んだと同時に、グレーゲルに囁かれた。
驚いて見上げれば、彼は口の端をちょっとだけ持ち上げた。
「見せつけてやれ。お前がどれだけダンスが上手いか」
「……っ……!!」
あーもー。こっちは一生懸命、道ならぬ恋を応援しているというのに、どうしてこうズレたことばっかりしてくれるのだろう。
ユリシアはグレーゲルの脛を蹴りたくなった。けれども、
「お手柔らかにお願いします」
「任せておけ。俺はこう見えて、ダンスが上手い」
自分で言ってりゃ世話がない。
最後の憎まれ口を叩いたユリシアは、令嬢らしい笑みを浮かべグレーゲルと呼吸を合わせる。いつの間にか震えは治まっていた。
(ごめんなさい。シャリスタンさん。どうか今だけは自分の為だけに時間を使うことを許してください)
心の中で謝罪の言葉を紡いだユリシアは、最初のステップを踏み出した。
そして震える手で彼の指先に触れようとした瞬間、逆に強く掴まれてしまいーーあっと思った時には、もうぎゅっと抱きしめられていた。
「……もう大丈夫だ」
耳に注ぎ込むように優しく言葉を落とされ、ユリシアはグレーゲルには双子の兄弟がいるんじゃないかと本気で思ってしまう。
「で、コイツは誰だ?」
カタカタ震えるユリシアを宥めるように優しく背を撫でながらグレーゲルは問うた。アルダードではなく、ラーシュに。
「ユリシア様に無礼を働いた不届き者です」
ラーシュはあえてグレーゲルに、これが例のユリシアの兄だということは伝えなかった。鋭い主の眼光を見て、言う必要などないと判断したからだ。
「へぇ。じゃあ、適当に刻んでおけ。俺は婚約者とダンスを踊らないといけないからな」
「御意に」
蝶の群れに一匹の羽虫が紛れていたところで、人は騒ぎ立てることはしない。
だって虫だから。相手にする必要はないのだ。
それをはっきり態度で示したグレーゲルは、強引にユリシアをダンスホールへと誘う。
「グレーゲル、待ってください!あの人はーー」
「知ってる。何も言うな」
「……っ」
びっくりするほど優しいグレーゲルの口調に、ユリシアは不覚にも涙ぐんでしまう。
(くっそ、むかつく)
泣かせようとしているグレーゲルに、わざと憎まれ口を叩いてみる。
だってそうしないと駄目なのだ。何がと言われたら良くわからないけれど、駄目なのだ。彼の言葉に身を委ねるのは。
「ったく、泣くな。おい見てみろ、今の俺は、婚約者を泣かせる非道な男になっているじゃないか」
「……血濡れの大公様なんですから、今更じゃないですか」
「おっ、言ってくれるな」
機嫌を損ねたかと思いきや、グレーゲルはなぜか嬉しそうに笑う。
そしてダンスホールに到着すると、あの日と同じようにユリシアをダンスに誘うべく、グレーゲルは上着の襟を正してから手を差し出した。
「それでは1曲願えますか」
「……はい」
こくっと頷いてグレーゲルの手のひらに自分の手を乗せたけれど、震えはまだ治まっていない。こんな状態で踊れるのだろうかとユリシアは不安になる。
まぁ、派手に転んだなら転んだで、自分の評価が下がるだけ。それは当初の予定通りになるだけ。
そう、……なるだけなんだけど。
「安心しろ。今日はこの前みたいにはしない」
向き合ってダンスの型を組んだと同時に、グレーゲルに囁かれた。
驚いて見上げれば、彼は口の端をちょっとだけ持ち上げた。
「見せつけてやれ。お前がどれだけダンスが上手いか」
「……っ……!!」
あーもー。こっちは一生懸命、道ならぬ恋を応援しているというのに、どうしてこうズレたことばっかりしてくれるのだろう。
ユリシアはグレーゲルの脛を蹴りたくなった。けれども、
「お手柔らかにお願いします」
「任せておけ。俺はこう見えて、ダンスが上手い」
自分で言ってりゃ世話がない。
最後の憎まれ口を叩いたユリシアは、令嬢らしい笑みを浮かべグレーゲルと呼吸を合わせる。いつの間にか震えは治まっていた。
(ごめんなさい。シャリスタンさん。どうか今だけは自分の為だけに時間を使うことを許してください)
心の中で謝罪の言葉を紡いだユリシアは、最初のステップを踏み出した。
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