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出来損ない令嬢のささやかな反撃 ※またの名を【ダンス事件】
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『本人に言わなきゃ、ユリシア様はずっと殿下に出来損ない令嬢と思われたままっすよ』
ラーシュの言葉はまさに正論だった。
だがしかし彼以外の全員が思った。「え?それ、今言っちゃうぅ~?」と。
誰一人言葉に出さなかったけれど8個の目は雄弁に語っており、非難目線を一身に受けたラーシュは頬をポリポリ掻きながら視線を逸らした。
「ーー説明したって……皆さんと違って殿下は私の話なんか聞いてくれないもん」
しんとした部屋にユリシアの拗ねた声が響いた。
膝を抱えて肩を落とすその姿は、言葉では誤認識を改めてくれるわけがないと心の底から思い込んでいるそれ。
そんなわけない。たとえフクロウがホゥホゥではなくヘェヘェと鳴いたって、グレーゲルはユリシアの言葉を全面的に信じるだろう。と、使用人一同は声を大にして主張したい。
だが、たったこれだけの仕草でユリシアがグレーゲルのことをどう思っているのか察した使用人達は、再び目線だけで緊急会議を開く。
会議は1分で終了し、ユリシアへ提案する役は多数決でラーシュが選ばれた。
「ええっとユリシア様、殿下が聞いてくれないなら……あ、あのですね。ぅおほぉっん」
「ん?は、はい」
わざとらしい咳ばらいをしたラーシュに、ユリシアは首を傾げつつ聞く姿勢を取る。
「なら、行動で見返してやりましょうよっ。殿下と一緒にダンスを踊っちゃいましょうよ!」
「は……い?」
「屋敷にはボールルームがあります!音楽だって任せてくださいよ。その辺は俺らがちゃーんとセッティングするんで任せてください!ユリシア様は殿下を引っ張って来てください。ね?そうしましょう!それが良い!!そんで一曲チャチャっと踊って、殿下がぐうの音も出ない顔を一緒に拝みましょうや。よーし、これで決定!!んじゃ、俺、ちょっくら準備してきますわ」
「えー!!」
何を言い出すかと思えばとんでもない提案を押し付けられた。挙句、ラーシュは脱兎のごとく別邸を飛び出して行った。
ブランも「こりゃいかん。選曲はわたくしの担当だ!」と叫んで風のように消え去ってしまった。
残るはモネリとアネリー。二人は素早い動きで大きなトレーを持ってくると、テーブルに並べられていた菓子類をそこに移していく。
(こ、これは嫌と言えない流れだ)
ユリシアは冷や汗をかく。侍女二人に声をかけたくても、頑として目を合わせようとはしないし、どうか話しかけてくれるなと見えない壁を作っている。
人の良いユリシアは全力で嫌だとごねたいが、相手が困ると思うとどうしたって行動に移せない。
とはいえ泣き言を言うくらいは、どうか多めに見て欲しい。
「……引っ張って来いって言われても、殿下が付いてきてくれわけな」
「いーえ大丈夫です!!」
「そうです!ユリシアが来いと言ったら、殿下は地の果てでも付いていきます!」
被せ気味に強く言われてもグレーゲルは道ならぬ恋をしていると思い込んでいるユリシアは、「んな馬鹿な!!」と叫びたい。
だが途方に暮れた顔をしているユリシアを、モネリとアネリーには違う意味に受け止めてしまった。
「ユリシア様、万が一……いえ億が一、いいえ兆が一、殿下が嫌だと拒んだらこう仰って下さい。”来れば、わかる”と」
「あと”見もしないで何がわかるの?”とちょっと煽ってみるのもアリです!とにかく大丈夫です!がんばです!!」
兆が一ってトオン領で流行ってる?と思ったのは間違いなく現実逃避だ。
だが、そうやすやすと逃がす気は無いモネリとアネリーは、ニコニコ笑みを浮かべながらユリシアをソファから立ち上がらせると、背中を押して本邸に続く回廊に押し出した。
ラーシュの言葉はまさに正論だった。
だがしかし彼以外の全員が思った。「え?それ、今言っちゃうぅ~?」と。
誰一人言葉に出さなかったけれど8個の目は雄弁に語っており、非難目線を一身に受けたラーシュは頬をポリポリ掻きながら視線を逸らした。
「ーー説明したって……皆さんと違って殿下は私の話なんか聞いてくれないもん」
しんとした部屋にユリシアの拗ねた声が響いた。
膝を抱えて肩を落とすその姿は、言葉では誤認識を改めてくれるわけがないと心の底から思い込んでいるそれ。
そんなわけない。たとえフクロウがホゥホゥではなくヘェヘェと鳴いたって、グレーゲルはユリシアの言葉を全面的に信じるだろう。と、使用人一同は声を大にして主張したい。
だが、たったこれだけの仕草でユリシアがグレーゲルのことをどう思っているのか察した使用人達は、再び目線だけで緊急会議を開く。
会議は1分で終了し、ユリシアへ提案する役は多数決でラーシュが選ばれた。
「ええっとユリシア様、殿下が聞いてくれないなら……あ、あのですね。ぅおほぉっん」
「ん?は、はい」
わざとらしい咳ばらいをしたラーシュに、ユリシアは首を傾げつつ聞く姿勢を取る。
「なら、行動で見返してやりましょうよっ。殿下と一緒にダンスを踊っちゃいましょうよ!」
「は……い?」
「屋敷にはボールルームがあります!音楽だって任せてくださいよ。その辺は俺らがちゃーんとセッティングするんで任せてください!ユリシア様は殿下を引っ張って来てください。ね?そうしましょう!それが良い!!そんで一曲チャチャっと踊って、殿下がぐうの音も出ない顔を一緒に拝みましょうや。よーし、これで決定!!んじゃ、俺、ちょっくら準備してきますわ」
「えー!!」
何を言い出すかと思えばとんでもない提案を押し付けられた。挙句、ラーシュは脱兎のごとく別邸を飛び出して行った。
ブランも「こりゃいかん。選曲はわたくしの担当だ!」と叫んで風のように消え去ってしまった。
残るはモネリとアネリー。二人は素早い動きで大きなトレーを持ってくると、テーブルに並べられていた菓子類をそこに移していく。
(こ、これは嫌と言えない流れだ)
ユリシアは冷や汗をかく。侍女二人に声をかけたくても、頑として目を合わせようとはしないし、どうか話しかけてくれるなと見えない壁を作っている。
人の良いユリシアは全力で嫌だとごねたいが、相手が困ると思うとどうしたって行動に移せない。
とはいえ泣き言を言うくらいは、どうか多めに見て欲しい。
「……引っ張って来いって言われても、殿下が付いてきてくれわけな」
「いーえ大丈夫です!!」
「そうです!ユリシアが来いと言ったら、殿下は地の果てでも付いていきます!」
被せ気味に強く言われてもグレーゲルは道ならぬ恋をしていると思い込んでいるユリシアは、「んな馬鹿な!!」と叫びたい。
だが途方に暮れた顔をしているユリシアを、モネリとアネリーには違う意味に受け止めてしまった。
「ユリシア様、万が一……いえ億が一、いいえ兆が一、殿下が嫌だと拒んだらこう仰って下さい。”来れば、わかる”と」
「あと”見もしないで何がわかるの?”とちょっと煽ってみるのもアリです!とにかく大丈夫です!がんばです!!」
兆が一ってトオン領で流行ってる?と思ったのは間違いなく現実逃避だ。
だが、そうやすやすと逃がす気は無いモネリとアネリーは、ニコニコ笑みを浮かべながらユリシアをソファから立ち上がらせると、背中を押して本邸に続く回廊に押し出した。
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