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出来損ない令嬢のささやかな反撃 ※またの名を【ダンス事件】

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 ユリシアの提案に頷いてくれた侍女二人は、いそいそとお茶の準備をはじめる。モネリがお茶を入れてくれ、アネリーがクッキーを皿に並べてくれた。

「じゃ、飲もっうか」
「はい」
「いただきます」

 小さなローテーブルに3つのティーカップが置かれて一気にお茶会ムードになる。

 たったそれだけでウキウキするユリシアは、感情のままにへにゃりと笑ってティーカップを口元に運ぼうとした。

 しかしその時、場の空気を壊すような乱暴なノックの音が響いた。

(……なんか以前にもこんなようなことあったな)

 デジャヴを感じたユリシアは、そっとティーカップをソーサーに戻す。

 その動作がフラグだったのかわからないが、嫌な予感は的中した。

 今回も居間に入ってきたのは執事のブランだった。

 そして前回同様、随分と急いで来たのだろう。今回も前髪の一部が額に流れているし、じんわり汗もかいている。

「お茶飲みま」
「お気持ちだけで」

 時間稼ぎをしようとしたユリシアに気付いたのか、ブランは被せ気味に頭を下げた。

 次いで顔を上げると共に、口を開く。耳を塞ぎたくなるような内容を。

「大公殿下がお呼びです。ユリシア様に至急話があるとのことで──」

 ブランが言い終える前に、ユリシアは強い目眩を覚えた。

「わ、私……何をしましたか?」
「……」

 こんなにも邪魔にならぬよう気配を殺しているというのに。一体、何がご不満なのだ!?

 なぁーんていう気持ちから、無言でいるブランを軽く睨めば彼はすっと顔をそらしやがった。

「殿下は、待たされるのがお好きではありません」

 言外に四の五の言わずにとっとと付いてこいと訴えられたユリシアは、侍女二人に救いを求めてみた。

「いってらっしゃ~いませ」
「ごゆっくりどうぞ」

 二人は生温い笑みを浮かべ立ち上がると、扉の前に移動する。

 おそらく自分を見送るためだろう。でもユリシアはソファから立ち上がることができない。だって行きたくないから。

「……あの、モネリとアネリーも一緒に──」
「ふふっ、そんなことできません」
「わたくしたちはここでお待ちしておりまーす」 

 誘いの途中だというのに、侍女二人はにこやかに辞退を申し出た。

(……ま、まぁ……あんなことがあったから大公殿下に会いたくないよね)

 カーテン絡まり事件は、一ヶ月経っても侍女達の心を蝕んでいるのだろう。

 ユリシアとて逃亡未遂後の交渉は今でも夢に見る。ジャンルは言うまでもないが、悪夢系だ。

 だからユリシアはこれ以上二人に無理強いするのを諦め、よっしと気合を入れて立ち上がった。




 別邸を後にしたユリシアは、ブランを先頭にグレーゲルの執務室に向かう。細く長い溜息を吐きながら。

 3歩前を歩くブランは気付いているだろう。こちらとしても最後の悪あがきでやっているのだから是非とも気付いて欲しい。

 しかしブランは完全なるスルーをして、足を動かすだけ。そして心の準備ができていないユリシアを無視して執務室の扉を開けた。

 すぐにユリシアは、ひぃっと声にならない悲鳴を上げた。

 なぜなら「あのぉ、もしかして怒ってますぅ?」などと聞くのが野暮なほど、グレーゲルがとても不機嫌な顔をしていたから。
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