上 下
29 / 37
そんなのってアリ?!

5

しおりを挟む
 ※本日は陛下視点でのお話です。




 藁にも縋りたい気持ちで、最愛の妻と同じラベンダー色の髪と濃い藍色の瞳を持つメイドからの神託をじっと待っていた国王陛下ことルーファスは、窓越しに人の気配を感じてそっと移動した。

 そしてあと3歩で窓に手が届こうとした瞬間、驚愕した。

 あろうことか黒ずくめの男がひらひらと手を振りながら、賓客を現す紋章をこちらに見せつけていたからだ。

 声を出さなかったことが奇跡だった。

 たださすがに、まがい物かもしれないという疑いから、食い入るように紋章を見つめた。……本物だった。しかも見知った顔だった。

 夜伽の最中に乱入してくれた客人の名はアサギという。
 はるか遠く東の島国、ムサシ国の第14王子である。

 遊学の為にかれこれ13年もこの国に居座り、現在は稀少なムサシ国の産物を取り扱う商人だったりもする。
 
 そんな男がなぜこんな場所に?

 その疑問を問う前に、アサギはメイドをチラリとみてから口を開いた。

『バラシタラ、コロス』

 ルーファスは夜の方はポンコツであるが、現役国王陛下であるから頭は冴えている。

 だからすぐに、それが誰に向けてのメッセージなのか瞬時に悟った。そして、”突然この部屋に乱入した不審者を警戒する陛下”を演じることを選んだ。

 その結果、アサギはメイドに対して特別な感情を抱いていることがわかった。

 ただ何故に? という疑念は持ってしまったが、仲睦まじい二人の様子を見て聞くだけ野暮だという結論に達した。

 それよりもルーファスは、アサギの想い人を夜伽相手にしてしまった事実に冷や汗をかいた。

 ヤバイという感情はものの見事に顔に出ていたのだろう。
 アサギはロッタに気付かれぬよう、顔だけをルーファスに向けると再び口パクをした。

『ヤッテナイカラ、コンカイダケミノガス。ツギハ、ナイ』

 ルーファスはムサシ国の礼節に則り、両手を合わせて頭を下げた。

 しかしそんな状況にいながらも、ルーファスはアサギの登場に手を打ち鳴らしたいほど内心喜んでいた。

 なぜならムサシ国の現国王の二つ名は、『絶倫王』。

 側室を8人抱えているムサシ国の王は、王子15人、王女7人。計22人の子供をこしらえている。

 しかも、アサギ曰く、来年には8人目の王女が誕生する予定らしい。

 なんと羨ましいことだろうか。
 ルーファスは男として本気で憧れ、またその精力に嫉妬した。

 そんな絶倫王の息子の知識はすさまじかった。

 ここで記すのは倫理上できないが、兎にも角にも、奇抜で大胆で驚愕する内容だった。

 ちなみに内容が内容だけにメイドは早々に自室に戻ってもらった。未婚の女性には、絶対に聞かせられないものであったから。

 その後もアサギは商人として、ルーファスに数々の品を与えた。

 ”男性機能を回復させるお茶”
 ”女性の身体を整えるお茶”
 ”夜の営みをスムーズにするお香”
 ”縛っても後に残らない摩訶不思議の縄”
 ”卑猥な言葉で女性を煽るセリフ集”

 あまりに実用的で、望むものであった為、ルーファスは思わずアサギに向けて『さすが絶倫王のご子息だ』と賛辞を口にした。

 本気で嫌な顔をされたことは心外だった。だが、そんなことは些末なことである。


 ─── それから3ヶ月後、王妃マルガリータは懐妊した。

 医師からそれを伝えられた時、ルーファスとマルガリータは手と手を取り合って涙した。

 ただその涙の種類が、同じものだったかどうかは定かではない。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話

彩伊 
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。 しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。 彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。 ............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。 招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。 送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。 そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。 『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』 一日一話 14話完結

泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される

琴葉悠
恋愛
 エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。  そんな彼女に婚約者がいた。  彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。  エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。  冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

婚約破棄をされて魔導図書館の運営からも外されたのに今さら私が協力すると思っているんですか?絶対に協力なんてしませんよ!

しまうま弁当
恋愛
ユーゲルス公爵家の跡取りベルタスとの婚約していたメルティだったが、婚約者のベルタスから突然の婚約破棄を突き付けられたのだった。しかもベルタスと一緒に現れた同級生のミーシャに正妻の座に加えて魔導司書の座まで奪われてしまう。罵声を浴びせられ罪まで擦り付けられたメルティは婚約破棄を受け入れ公爵家を去る事にしたのでした。メルティがいなくなって大喜びしていたベルタスとミーシャであったが魔導図書館の設立をしなければならなくなり、それに伴いどんどん歯車が狂っていく。ベルタスとミーシャはメルティがいなくなったツケをドンドン支払わなければならなくなるのでした。

つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?

恋愛
少しネガティブな天然鈍感辺境伯令嬢と目つきが悪く恋愛に関してはポンコツコミュ障公爵令息のコミュニケーションエラー必至の爆笑(?)すれ違いラブコメ! ランツベルク辺境伯令嬢ローザリンデは優秀な兄弟姉妹に囲まれて少し自信を持てずにいた。そんなローザリンデを夜会でエスコートしたいと申し出たのはオルデンブルク公爵令息ルートヴィヒ。そして複数回のエスコートを経て、ルートヴィヒとの結婚が決まるローザリンデ。しかし、ルートヴィヒには身分違いだが恋仲の女性がいる噂をローザリンデは知っていた。 エーベルシュタイン女男爵であるハイデマリー。彼女こそ、ルートヴィヒの恋人である。しかし上級貴族と下級貴族の結婚は許されていない上、ハイデマリーは既婚者である。 ローザリンデは自分がお飾りの妻だと理解した。その上でルートヴィヒとの結婚を受け入れる。ランツベルク家としても、筆頭公爵家であるオルデンブルク家と繋がりを持てることは有益なのだ。 しかし結婚後、ルートヴィヒの様子が明らかにおかしい。ローザリンデはルートヴィヒからお菓子、花、アクセサリー、更にはドレスまでことあるごとにプレゼントされる。プレゼントの量はどんどん増える。流石にこれはおかしいと思ったローザリンデはある日の夜会で聞いてみる。 「つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?」 するとルートヴィヒからは予想外の返事があった。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

処理中です...