上 下
25 / 37
そんなのってアリ?!

しおりを挟む
 ─── ロッタが陛下と夜伽(未遂)をして、3ヶ月が経過した。


 ゴーン、ゴーンと教会から祝いの鐘が鳴り響く。

 きんとした真冬の空気はとても澄んでいる。そのせいで、とても良く響く。しかも王都中の教会で打ち鳴らしてくれるのだ。

 今日も、昨日も、一昨日も。そしてきっと明日も鳴り続けるのだろう。もはやこれは、騒音と言っても過言ではない。

 きっと王都中の人間がそう思っているだろう。けれど口に出すことはしない、できない。

 なぜなら王妃マルガリータが身籠ったからだ。嫁して8年目でやっと。

 だから王都中がお祝いモードになるのは仕方無い。騒音だって、福音として受け止めなければならない。

 なのだが、今日も今日とて庭掃除をするロッタの心境は複雑だった。




「いや、まさかねぇー……」

 ロッタはゴミなど一つも落ちていない庭園の石畳を、せっせとホウキで掃きながら呟いた。

 メイドは、真冬でも勤務中はコートを羽織ることを禁じられている。
 だから暖を取る為には、せっせと身体を動かさなければならない。

 でも真冬の庭園は閑散としているので、口を動かしても咎められることは無い。

 ある意味絶好のサボり場所なのだが、今の季節、好き好んでここの掃除をやりたいと思うメイドはいない。
  
 言わなくても良いかもしれないが、現在もロッタが王宮でメイドをしているということは、彼女を取り巻く環境に変化が無いということ。

 純潔は守られた。己の命も守られた。遠方に住む両親も弟も健在だし、幼馴染の首も胴体にちゃんとくっついている。

 でも、ロッタは微妙な顔つきのまま、鐘の音に耳を澄ます。

 なぜなら、昨年の晩秋。王妃に一泡吹かせたいと意気込んでいたけれど、こんな展開になるとは思ってもみなかったから。

 アサギがロッタに与えた策は、なかなかエグイものだった。

 毎夜毎夜、愛する夫から自分が嫌がる行為で抱かれるというもの。

 しかもそれが雑草と同等だと思っていたメイドの入れ知恵なのだから、歯ぎしりせんばかりだろう。

 でもそれを言えないようにしたのだから、きっと王妃は人知れず屈辱感で顔を歪めたはずだ。

 とはいえ、結果としてロッタは人助けをしたことになる。

 不能だった陛下の男性機能を回復させ、石女うまずめ王妃の名を返上させることができたのだから。

 ただなんでだろう。こんなにもやっとするのは……。

 ロッタはホウキを握りながら、うんうんと唸ってみる。

 そんなふうに自問自答を繰り返すロッタは、本日もまた背後から忍び寄る陰に気付くことができなかった。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

好きな人に惚れ薬を飲ませてしまいました

当麻月菜
恋愛
パン屋の一人娘フェイルは、5つ年上の貴族の次男坊であり王宮騎士ルナーダに片思いをしている。 けれど来月、この彼は王宮を去る。領地を治めている兄を支えるために。 このまま顔馴染みの間柄でいたくない。 せめてルナーダが王都を離れてしまうまで恋人でいたい。 そう思ったフェイルは、ある決心をした。そして王都の外れにある魔女の屋敷へと向かう。 ──惚れ薬を手に入れ、ルナーダに飲ませる為に。 ※小説家になろうさまに同タイトルで掲載していますが、設定が異なります。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

結婚式当日に花婿に逃げられたら、何故だか強面軍人の溺愛が待っていました。

当麻月菜
恋愛
平民だけれど裕福な家庭で育ったシャンディアナ・フォルト(通称シャンティ)は、あり得ないことに結婚式当日に花婿に逃げられてしまった。 それだけでも青天の霹靂なのだが、今度はイケメン軍人(ギルフォード・ディラス)に連れ去られ……偽装夫婦を演じる羽目になってしまったのだ。 信じられないことに、彼もまた結婚式当日に花嫁に逃げられてしまったということで。 少しの同情と、かなりの脅迫から始まったこの偽装結婚の日々は、思っていたような淡々とした日々ではなく、ドタバタとドキドキの連続。 そしてシャンティの心の中にはある想いが芽生えて……。 ※★があるお話は主人公以外の視点でのお話となります。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

処理中です...