4 / 37
ああ、なるほどね……
4
しおりを挟む
子供というのは神様からの授かりものだ。
そして神様にとったら、王妃も平民も同じ人間なのだ。そこに差別は無く、しかるべきところに子を授けるのだ。
でも、この国の中枢である王宮内では、そんなこと、口に出してはいけない。
なぜなら、国王陛下と王妃の元に赤ちゃんが来ないのは、しかるべきところでは無いという意味になってしまうから。
マルガリータにとったら、そんなのは認めたくないのだろう。いや、認めてはいけないのだ。
だから側室を国王に宛がい、他人の手を借りて世継ぎを儲けようとしているのだ。
メイドとして王宮に入っても、やっぱり国王陛下と王妃の仲は良いと聞く。陛下は心からマルガリータを愛しているのは間違いないようだ。
そんな愛してくれる夫に、自らの手で愛人を差し出すのはどれほど辛いことだろうか。
ロッタはホウキを握る手を弱めた。
夜伽をする、しないは、一先ず置いておいて、目の前の絢爛豪華な衣装を身に付ける女性は、自分より遥かに辛い状況なのだと気付き、憐憫の目を向けてしまう。
と同時に、王妃の言葉にうんうんと一糸乱れぬ動きで頷き続けている取り巻きの女の一人から強い視線を受けているのに気付く。
ロッタは探るような視線から逃れるように、つい俯いてしまう。
実はロッタは、この王宮メイドとして働くにあたり、少々隠し事をしているのだ。もしかして、それがバレたのだろうか。
いやでも、この取り巻き女たちは、身元がしっかりした高位の貴族令嬢のはずだ。だから、バレる訳がない。
いやいやしかし、貴族というのは噂話が大好きだ。だから絶対に……とは言い切れない。
そんなふうにロッタが冷や汗をかいていたら、取り巻き女はマルガリータに近づき何やら耳打ちをする。
取り巻き女の唇が動く度にマルガリータの目が丸くなっていく。「ああ、なるほどね……」と、時折納得するマルガリータの仕草が怖くてたまらない。
ロッタの背中は、冬も近い晩秋だというのに嫌な汗でびっちょりだ。
「……そうだったのね、ロッタ」
─── え゛、なにが?
ロッタは食い気味に問うた。
でも、喉がからっからに乾いていたせいで、あいにく声を出すことはできない。
それはある意味正解で、マルガリータは、動揺するロッタを都合よく受け止めて、訝しい表情を浮かべることはしない。
ただただ合点がいったと言わんばかりに、『そうね、そうなのね』を繰り返す。
───…… ねぇ、だから何が?
今度は握っているホウキが手汗のせいでニュルルっと滑った。
そして神様にとったら、王妃も平民も同じ人間なのだ。そこに差別は無く、しかるべきところに子を授けるのだ。
でも、この国の中枢である王宮内では、そんなこと、口に出してはいけない。
なぜなら、国王陛下と王妃の元に赤ちゃんが来ないのは、しかるべきところでは無いという意味になってしまうから。
マルガリータにとったら、そんなのは認めたくないのだろう。いや、認めてはいけないのだ。
だから側室を国王に宛がい、他人の手を借りて世継ぎを儲けようとしているのだ。
メイドとして王宮に入っても、やっぱり国王陛下と王妃の仲は良いと聞く。陛下は心からマルガリータを愛しているのは間違いないようだ。
そんな愛してくれる夫に、自らの手で愛人を差し出すのはどれほど辛いことだろうか。
ロッタはホウキを握る手を弱めた。
夜伽をする、しないは、一先ず置いておいて、目の前の絢爛豪華な衣装を身に付ける女性は、自分より遥かに辛い状況なのだと気付き、憐憫の目を向けてしまう。
と同時に、王妃の言葉にうんうんと一糸乱れぬ動きで頷き続けている取り巻きの女の一人から強い視線を受けているのに気付く。
ロッタは探るような視線から逃れるように、つい俯いてしまう。
実はロッタは、この王宮メイドとして働くにあたり、少々隠し事をしているのだ。もしかして、それがバレたのだろうか。
いやでも、この取り巻き女たちは、身元がしっかりした高位の貴族令嬢のはずだ。だから、バレる訳がない。
いやいやしかし、貴族というのは噂話が大好きだ。だから絶対に……とは言い切れない。
そんなふうにロッタが冷や汗をかいていたら、取り巻き女はマルガリータに近づき何やら耳打ちをする。
取り巻き女の唇が動く度にマルガリータの目が丸くなっていく。「ああ、なるほどね……」と、時折納得するマルガリータの仕草が怖くてたまらない。
ロッタの背中は、冬も近い晩秋だというのに嫌な汗でびっちょりだ。
「……そうだったのね、ロッタ」
─── え゛、なにが?
ロッタは食い気味に問うた。
でも、喉がからっからに乾いていたせいで、あいにく声を出すことはできない。
それはある意味正解で、マルガリータは、動揺するロッタを都合よく受け止めて、訝しい表情を浮かべることはしない。
ただただ合点がいったと言わんばかりに、『そうね、そうなのね』を繰り返す。
───…… ねぇ、だから何が?
今度は握っているホウキが手汗のせいでニュルルっと滑った。
3
お気に入りに追加
1,534
あなたにおすすめの小説
伯爵家に仕えるメイドですが、不当に給料を減らされたので、辞職しようと思います。ついでに、ご令嬢の浮気を、婚約者に密告しておきますね。
冬吹せいら
恋愛
エイリャーン伯爵家に仕えるメイド、アンリカ・ジェネッタは、日々不満を抱きながらも、働き続けていた。
ある日、不当に給料を減らされることになったアンリカは、辞職を決意する。
メイドでなくなった以上、家の秘密を守る必要も無い。
アンリカは、令嬢の浮気を、密告することにした。
エイリャーン家の没落が、始まろうとしている……。
好きにしろ、とおっしゃられたので好きにしました。
豆狸
恋愛
「この恥晒しめ! 俺はお前との婚約を破棄する! 理由はわかるな?」
「第一王子殿下、私と殿下の婚約は破棄出来ませんわ」
「確かに俺達の婚約は政略的なものだ。しかし俺は国王になる男だ。ほかの男と睦み合っているような女を妃には出来ぬ! そちらの有責なのだから侯爵家にも責任を取ってもらうぞ!」
公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます
柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。
社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。
※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。
※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意!
※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。
王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。
しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。
相手は10歳年上の公爵ユーグンド。
昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。
しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。
それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。
実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。
国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。
無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。
【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。
仰木 あん
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。
彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。
しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる……
そんなところから始まるお話。
フィクションです。
相手不在で進んでいく婚約解消物語
キムラましゅろう
恋愛
自分の目で確かめるなんて言わなければよかった。
噂が真実かなんて、そんなこと他の誰かに確認して貰えばよかった。
今、わたしの目の前にある光景が、それが単なる噂では無かったと物語る……。
王都で近衛騎士として働く婚約者に恋人が出来たという噂を確かめるべく単身王都へ乗り込んだリリーが見たものは、婚約者のグレインが恋人と噂される女性の肩を抱いて歩く姿だった……。
噂が真実と確信したリリーは領地に戻り、居候先の家族を巻き込んで婚約解消へと向けて動き出す。
婚約者は遠く離れている為に不在だけど……☆
これは婚約者の心変わりを知った直後から、幸せになれる道を模索して突き進むリリーの数日間の物語である。
果たしてリリーは幸せになれるのか。
5〜7話くらいで完結を予定しているど短編です。
完全ご都合主義、完全ノーリアリティでラストまで作者も突き進みます。
作中に現代的な言葉が出て来ても気にしてはいけません。
全て大らかな心で受け止めて下さい。
小説家になろうサンでも投稿します。
R15は念のため……。
この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。
サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――
元婚約者が愛おしい
碧桜 汐香
恋愛
いつも笑顔で支えてくれた婚約者アマリルがいるのに、相談もなく海外留学を決めたフラン王子。
留学先の隣国で、平民リーシャに惹かれていく。
フラン王子の親友であり、大国の王子であるステファン王子が止めるも、アマリルを捨て、リーシャと婚約する。
リーシャの本性や様々な者の策略を知ったフラン王子。アマリルのことを思い出して後悔するが、もう遅かったのだった。
フラン王子目線の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる