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当て馬になっても、やっぱり彼はカッコいい(のろけ)
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鐘の音が響くと同時に、4人は動き出した。
ウェルドとアランは庭園内の待ち合わせ場所に。
そしてティスタとリスラッドは、その近くの適当な茂みに。
ただ、ティスタは自分が思っている以上に不安げな表情をしている。それに気付いたアランが、苦笑交じりティスタに近づいた。
「ティスタちゃん大丈夫、全部上手く行くから。そんな不安そうな顔をしないで。ウェルドだって君が微笑んでくれたほうがやる気がでるんだから。─── ほら、笑って」
そう言いながら、アランは手の甲でティスタの頬を撫でる。
対してティスタは、余計に笑えない。鬼のような形相でウェルドが、アランを睨みつけているから。
ただアランの過度なスキンシップは、今に始まったことじゃない。
相手は大貴族様だし異性なので、気軽に会う間柄では無いけれど、それでも顔を合わせれば、いつだってアランはティスタに対してこんなふうに触れてくる。ぶっちゃけ困る。
とはいえ、格上の相手に対して無下に嫌だと態度で示すのはいささか失礼にあたるので、毎度ティスタはピキンと固まったまま時が過ぎるのをじっと待つしかない。本当に困る。
ただ本日は、それに黙っていない者がいた。
「やめろ」
鋭い声と共に、侯爵家嫡男の手をティスタの頬からスパンと払い落としたのは、ウェルドだった。
「人の婚約者に馴れ馴れしく触るな」
長い付き合いのある友人であっても、格上の貴族であっても、これから一計を案じる仲間であっても、ウェルドは婚約者が異性に触れられるのは大変不愉快なご様子である。
ただ、無礼を受けたお貴族様のアランは不機嫌になるどころか、意味ありげな笑みを親友に浮かべるだけ。
「ごめん、ごめん。そうカッカしないで。僕と君との仲じゃないか」
含みを持たせたその言い方にティスタは引っ掛かりを覚えるが、ウェルドは普段からその言葉に慣れているのだろう。
言い負かされた感満載で仏頂面にはなるけれど、それ以上アランに食って掛かることはしなかった。
そしている間にも時間は刻一刻と過ぎていく。
ウェルドはふぅーっと気持ちを切り替えるように大きく深呼吸をして、気持ちを切り替える。
そして少し乱れた髪を整えて、物置き小屋を出ようとした……が。
「ヤバイ!隠れろっ。ヴァネッサ嬢がすぐ近くにいるっ」
ウェルドは小声ではあるが、切羽詰まった声を出した。
それを聞いた途端、ティスタを含む全員が血相を変えて物置き小屋の端に身を寄せた。
「……嘘だろ?まるでトリュフを探す豚じゃないか」
「……多分、僕ん家のプライベート空間だから金目のモノがあるか物色してるんじゃない?」
「……窃盗で取っ捕まえて、自警団に突き出すのも悪い案じゃないな。いや結構名案だ」
こそこそと軽口を叩く男子3人は、不測の事態のせいで急なプラン変更を余儀なくされたというのに比較的落ち着いている。
しかし、ティスタは顔面蒼白だ。
他人に指図されることを毛嫌いする姉は、自分の心の中にあるマイ時計でしか動かない人間である。
なのに、定刻通りにここへ来た。
これは何かしらの意図があるに違いない。
そう決めつけているティスタは、出鼻を挫くじかれたどころか、粉砕された気分になってしまい───
先行きが不安で、不安で、不安で、不安で、仕方が無かった。
ウェルドとアランは庭園内の待ち合わせ場所に。
そしてティスタとリスラッドは、その近くの適当な茂みに。
ただ、ティスタは自分が思っている以上に不安げな表情をしている。それに気付いたアランが、苦笑交じりティスタに近づいた。
「ティスタちゃん大丈夫、全部上手く行くから。そんな不安そうな顔をしないで。ウェルドだって君が微笑んでくれたほうがやる気がでるんだから。─── ほら、笑って」
そう言いながら、アランは手の甲でティスタの頬を撫でる。
対してティスタは、余計に笑えない。鬼のような形相でウェルドが、アランを睨みつけているから。
ただアランの過度なスキンシップは、今に始まったことじゃない。
相手は大貴族様だし異性なので、気軽に会う間柄では無いけれど、それでも顔を合わせれば、いつだってアランはティスタに対してこんなふうに触れてくる。ぶっちゃけ困る。
とはいえ、格上の相手に対して無下に嫌だと態度で示すのはいささか失礼にあたるので、毎度ティスタはピキンと固まったまま時が過ぎるのをじっと待つしかない。本当に困る。
ただ本日は、それに黙っていない者がいた。
「やめろ」
鋭い声と共に、侯爵家嫡男の手をティスタの頬からスパンと払い落としたのは、ウェルドだった。
「人の婚約者に馴れ馴れしく触るな」
長い付き合いのある友人であっても、格上の貴族であっても、これから一計を案じる仲間であっても、ウェルドは婚約者が異性に触れられるのは大変不愉快なご様子である。
ただ、無礼を受けたお貴族様のアランは不機嫌になるどころか、意味ありげな笑みを親友に浮かべるだけ。
「ごめん、ごめん。そうカッカしないで。僕と君との仲じゃないか」
含みを持たせたその言い方にティスタは引っ掛かりを覚えるが、ウェルドは普段からその言葉に慣れているのだろう。
言い負かされた感満載で仏頂面にはなるけれど、それ以上アランに食って掛かることはしなかった。
そしている間にも時間は刻一刻と過ぎていく。
ウェルドはふぅーっと気持ちを切り替えるように大きく深呼吸をして、気持ちを切り替える。
そして少し乱れた髪を整えて、物置き小屋を出ようとした……が。
「ヤバイ!隠れろっ。ヴァネッサ嬢がすぐ近くにいるっ」
ウェルドは小声ではあるが、切羽詰まった声を出した。
それを聞いた途端、ティスタを含む全員が血相を変えて物置き小屋の端に身を寄せた。
「……嘘だろ?まるでトリュフを探す豚じゃないか」
「……多分、僕ん家のプライベート空間だから金目のモノがあるか物色してるんじゃない?」
「……窃盗で取っ捕まえて、自警団に突き出すのも悪い案じゃないな。いや結構名案だ」
こそこそと軽口を叩く男子3人は、不測の事態のせいで急なプラン変更を余儀なくされたというのに比較的落ち着いている。
しかし、ティスタは顔面蒼白だ。
他人に指図されることを毛嫌いする姉は、自分の心の中にあるマイ時計でしか動かない人間である。
なのに、定刻通りにここへ来た。
これは何かしらの意図があるに違いない。
そう決めつけているティスタは、出鼻を挫くじかれたどころか、粉砕された気分になってしまい───
先行きが不安で、不安で、不安で、不安で、仕方が無かった。
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