上 下
13 / 25

彼女が選んだ復讐とは②

しおりを挟む
 ラヴィエルは、フローレンスの血が滲む手のひらを見た途端、顔を顰めた。

「それにしても派手にやったね。かなり痛いだろう?」
「……いえ、見た目よりは痛くはありません。それよりも、早く」
「早く終わらせて、どこに行きたいのかな?婚約者殿」

 上着のポケットからハンカチを取り出しながら、ラヴィエルは軽い口調でフローレンスに問いかけた。

「……わたくしが行きたいところなど、言わなくてもご存知なのでは?」

 意地の悪い返答をするフローレンスに、ラヴィエルは低く笑った。

「願わくば、私と二人っきりになれる場所……と言って欲しいけれど、その表情は違うようだね」
「……」
「ま、私としても、ついさっきの出来事を一部始終見てしまったからからね。それを有耶無耶にはできないし。っということで、二人っきりになるのは後にとっておこうかな」
「……」

 ハンカチで手のひらを応急処置するラヴィエルは、意味ありげにフローレンスを見つめる。

 対してフローレンスは無言を貫きながらも、どうとでも取れる微笑みを浮かべた。

 今朝、侍女のユーナに命じたことは”ラヴィエル様に急に会いたくなったから、内緒で彼をここに呼んで”と彼に伝言を伝える至極簡単なもの。

 無論、急に会いたくなったわけではない。彼をこの件の目撃者に仕立てるつもりだった。

 リコッタは、ラヴィエルに想いを寄せている。彼を手に入れるためなら、人の命を奪うことすら平気でできるほどに。

 そんな想い人に、自分の犯行を見られたら─── 心のダメージは相当なものだろう。

 ただ、自分の危機を救ってくれるとは思いもよらなかったけれど。

「で、婚約者殿。今から向かうのは、君が突き落とされたバルコニーがある部屋で良いのかな?」

 確信を持ったラヴィエルの問いに、フローレンスは無言で頷いた。

「そうかい。では、行くとしよう」 

 言うが早いか、ラヴィエルはフローレンスを抱えたまま立ち上がる。どうやら、彼はこのまま居間に向かう気だ。

 でもフローレンスは、もう降ろしてとは言わなかった。

 もちろん恥ずかしいという気持ちはある。だが、利用できるものは、何だって利用させてもらう気持ちのほうが強かったから。 

(あの子を追い込むのには、こっちの方が効果的ね)

「ラヴィエルさま、首に手を回してもよろしいかしら?」

 これまで一切触れ合いを持とうとしなかった婚約者の甘えた言葉に、ラヴィエルは目を丸くする。

 しかし彼は「光栄です」と言って、フローレンスの為にほんの少し首を下げた。


 そしてしっかりとフローレンスを抱き直すと、ラヴィエルは足早に、バルコニーがある居間へと向かった。  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

屋敷のバルコニーから突き落とされて死んだはずの私、実は生きていました。犯人は伯爵。人生のドン底に突き落として社会的に抹殺します。

夜桜
恋愛
【正式タイトル】  屋敷のバルコニーから突き落とされて死んだはずの私、実は生きていました。犯人は伯爵。人生のドン底に突き落として社会的に抹殺します。  ~婚約破棄ですか? 構いません!  田舎令嬢は後に憧れの公爵様に拾われ、幸せに生きるようです~

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

死んで巻き戻りましたが、婚約者の王太子が追いかけて来ます。

拓海のり
恋愛
侯爵令嬢のアリゼは夜会の時に血を吐いて死んだ。しかし、朝起きると時間が巻き戻っていた。二度目は自分に冷たかった婚約者の王太子フランソワや、王太子にべったりだった侯爵令嬢ジャニーヌのいない隣国に留学したが──。 一万字ちょいの短編です。他サイトにも投稿しています。 残酷表現がありますのでR15にいたしました。タイトル変更しました。

天才手芸家としての功績を嘘吐きな公爵令嬢に奪われました

サイコちゃん
恋愛
ビルンナ小国には、幸運を運ぶ手芸品を作る<謎の天才手芸家>が存在する。公爵令嬢モニカは自分が天才手芸家だと嘘の申し出をして、ビルンナ国王に認められた。しかし天才手芸家の正体は伯爵ヴィオラだったのだ。 「嘘吐きモニカ様も、それを認める国王陛下も、大嫌いです。私は隣国へ渡り、今度は素性を隠さずに手芸家として活動します。さようなら」 やがてヴィオラは仕事で大成功する。美貌の王子エヴァンから愛され、自作の手芸品には小国が買えるほどの値段が付いた。それを知ったビルンナ国王とモニカは隣国を訪れ、ヴィオラに雑な謝罪と最低最悪なプレゼントをする。その行為が破滅を呼ぶとも知らずに――

もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?

当麻月菜
恋愛
次期当主になるべく、領地にて父親から仕事を学んでいた伯爵令息フレデリックは、ちょっとした出来心で領民の娘イルアに手を出した。 ただそれは、結婚するまでの繋ぎという、身体目的の軽い気持ちで。 対して領民の娘イルアは、本気だった。 もちろんイルアは、フレデリックとの間に身分差という越えられない壁があるのはわかっていた。そして、その時が来たら綺麗に幕を下ろそうと決めていた。 けれど、二人の関係の幕引きはあまりに酷いものだった。 誠意の欠片もないフレデリックの態度に、立ち直れないほど心に傷を受けたイルアは、彼に復讐することを誓った。 弄ばれた女が、捨てた男にとって最後で最高の女性でいられるための、本気の復讐劇。

(完)僕は醜すぎて愛せないでしょう? と俯く夫。まさか、貴男はむしろイケメン最高じゃないの!

青空一夏
恋愛
私は不幸だと自分を思ったことがない。大体が良い方にしか考えられないし、天然とも言われるけれどこれでいいと思っているの。 お父様に婚約者を押しつけられた時も、途中でそれを妹に譲ってまた返された時も、全ては考え方次第だと思うわ。 だって、生きてるだけでもこの世は楽しい!  これはそんなヒロインが楽しく生きていくうちに自然にざまぁな仕返しをしてしまっているコメディ路線のお話です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。転生者の天然無双物語。

(完)あなたの瞳に私は映っていなかったー妹に騙されていた私

青空一夏
恋愛
 私には一歳年下の妹がいる。彼女はとても男性にもてた。容姿は私とさほど変わらないのに、自分を可愛く引き立てるのが上手なのよ。お洒落をするのが大好きで身を飾りたてては、男性に流し目をおくるような子だった。  妹は男爵家に嫁ぎ玉の輿にのった。私も画廊を経営する男性と結婚する。私達姉妹はお互いの結婚を機に仲良くなっていく。ところがある日、夫と妹の会話が聞こえた。その会話は・・・・・・  これは妹と夫に裏切られたヒロインの物語。貴族のいる異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。 ※表紙は青空作成AIイラストです。ヒロインのマリアンです。 ※ショートショートから短編に変えました。

婚約者に捨てられたので殺される前に言葉も交わしたことのない人と逃げることにしました。

四折 柊
恋愛
 家のために王太子の婚約者として生きてきた日々。ところがその婚約者に捨てられて家族には死を受け入れろと毒を渡される。そんな私にここから逃げようと手を差し伸べてくれたのは言葉も交わしたことのない人でした。 ※「婚約者に捨てられて死を待つ令嬢を連れて逃げた男の話」の対になる女性目線のお話です。こちらを読んで頂ければより分かりやすいと思います。

処理中です...