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5.【私は】【俺は】─── この時をずっと待っていた

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 肩の力を抜いてレンブラントはベルを見る。気付けばその頬に手を伸ばしていた。

「……派手にやられたな。痛いか?」
「ええ、かなり。あなたが強引に痛覚を戻すから。……でも」
「でも?」
「もう痛みを無くしたいとは思わないですよ」
「そうか。そりゃあ、何よりだ」
「ええ。だって、あなたが悲しい顔をするから。私、あなたのそんな顔なんて、見たくないですから」

「……っ!?」

 不意打ちだった。完璧に隙を突かれた。

 レンブラントは、今、自分がどんな顔をしているのかわからなかった。

 ただ、部下には絶対に見せられない顔をしている自覚はある。彼らが外に居ることを、心底ありがたいと思った。

「こりゃあ、まいった。あんたは、つくづく俺を翻弄するのが上手い」

 手の甲で口元を隠し、照れ隠しでそんなことを言ってみればベルは笑った。

 とても奇麗だった。そして、これまで自分は彼女の笑みを見たことが無かったことに気付く。

(つまり、ちょっとはあの時言ったことを考えてくれたということか?)

 期待する気持ちが抑え切れない。まるで少年のように心が踊る。

「……ベル、あんたは」
「ねえ、レンブラントさん。聞きたいことがあるんですけど」

 かすれた声で一歩踏み込んだことを聞こうと思えば、悲しいほどの温度差のある声音で遮られてしまった。

 無論、レンブラントはベルに発言権を譲る。

 そうすればベルは、ぎゅっと握りしめていた領印をレンブラントに見せながら口を開いた。

「……これ、どうしたの?」
「複製した。───……って、そんなこの世の終わりのような表情をすんな。ちゃんと陛下には許可を得ている。違法じゃない。合法だ」
「本当なんですか?」
「本当だ。おいっ、なんだその疑う目付きは。言っておくが、これを複製するよう尽力してくれたのは、俺じゃない。あの、おっさんだ」
「おっさんって……ガドバルドさんのことですか?」
「ああ。あの人は、まあまあ偉いお方だし、陛下の信頼も厚い。で、その信頼を逆手に取って、大人げなく陛下を脅して領印の再造許可をもぎ取ったんだ」
「……そうだったんですか。どうしよう。私……まだ、ちゃんとお礼を言ってない」
「んなもん、気にするな。それに、どうせすぐ会うだろ?」

 最後は雑に返答すれば、意外にもベルはあっさりと頷いた。

 ただ、表情はすっきりしていない。いや、先ほどより思いつめている。

「なあ、ベル。他に何か不安に思っていることでもあるのか?」
「……あります。えっと……その……」
「なんだ?」

 珍しく歯切れの悪いベルに、レンブラントは少し語尾を強めて続きを促す。

 無理強いさせる気は無いが、憂いているものは一刻も早く排除してあげたかったから。
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