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5.【私は】【俺は】─── この時をずっと待っていた

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 長年拗れていた関係が修復した瞬間を見て、レンブラントは感動するよりも、やれやれといった感じで肩をすくめた。

(……ったく、手のかかるおっさんだ)

 レンブラントは、ベルをレイカールトン侯爵のもとまで連れて行くという王命以外に、もう一つ依頼を受けていた。

 それが、これ。依頼主はガドバルド・フォンク。メオテール国の警護団の副長官。

 ちなみに長官は第二王子である。そのため事実上、ガドバルドが警護団を統括している。鬼より怖いと有名で、彼が王宮を歩けば大臣とて道を譲るとか、譲らないとか。

 そんな怖いもの知らずの副長官であるが、姪っ子ベルに関しては笑ってしまうほどのヘタレに変わる。

 つまらない意地を張っていたせいで、長年姪っ子ベルが辛い環境に置かれていたことに気付けず、今更、どの面下げて会えるのかと己を責めていた。

 だが、ガドバルドはベルに会いたかった。会って謝罪したかった。ケルス領の件で力になりたかった。

 そんなわけでガドバルドは職権を乱用した。王命を直属に受けたレンブラントに再会する場を与えて欲しいと依頼したのだ。幸か不幸か、この二人は個人的に繋がりがあった。

 結果としてガドバルドは、警護団の制服姿でベルの前にカッコ良く登場することができた。

 ……フローチェの執事に扮していたのは、まぁ、あれだアレ。所謂、再会の練習をしていたということで。

 レンブラント的には、執事に変装してベルに近付く度胸があるなら、さっさと自分の素性をバラせば良いのにと思ったけれど、兎にも角にも、丸く収まったので良しとすることにした。

 ─── と、いうわけで。
 

(さて、俺もそろそろ腹を括るか)

 無事ベルに伯父として受け入れてもらえたガドバルドは、部下に呼ばれて倉庫の外へと出て行った。

 自分の部下たちは気を利かせて、とっくの前に外にいる。

 良く出来た部下たちにレンブラントは内心褒めつつ、愛しい少女に視線を向けた。



「────……改めて久しぶりだな、ベル。元気だったか?」

 自分でも情けないほどありきたりな切り出し方をして、すぐに後悔した。元気という言葉は、今、使うべきじゃなかった。

(くそっ、どうやら俺は、自分で思っている以上に緊張しているようだ)

 死の最前線に立った時より緊張していることを自覚したレンブラントは、そんな己に呆れてしまう。

 だが、目の前にいるベルは、もっと呆れ顔でいる。

「見ての通りですよ」
「……なるほど。ちょっと目を離した隙にこれか」

 ぐしゃぐしゃに乱れた髪に、しわくちゃのドレス。頬には痣ができて、口の端は血がにじんでいる。きっと見えない部分にも傷を負っているのだろう。

「俺は心臓が幾つあっても持たない」
「はぁ?どれだけ長生きする気なんですか」

 本音を漏らせば、すぐさま毒を頂戴した。

 相変わらず口が悪い彼女に、レンブラントは苦笑する。だが、おかげで無駄に緊張していた身体がほんの少しだけ解れてくれた。
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